キャベツの謎

お好み焼きといえばもちろんキャベツ。焼きそばにもキャベツ。串揚げ(串カツ)屋に行けば、つまみ代わりにキャベツが壺に入っている。最近では、ホットドックにもカレー風味のキャベツが挟まっているらしい。大阪に行くと、東京よりもキャベツの姿が目につく。関西ではそれだけ消費量も多いのだろうと思ってちょっと調べてみた。

すると意外なことが判明。総務省の家計調査によると、大阪市の世帯あたりの消費量は全国平均以下で、調査対象の52都市中34位。真ん中よりだいぶ下という結果であった。ちなみに上位を見ると、1位は長野市、2位相模原市、3位新潟市の順になっている。ふーむ、これはどういうことだろうか。お好み焼きや焼きそば以外のキャベツ料理といえば、ロールキャベツくらいしか思い浮かばないけれど、ロールキャベツをしょっちゅう、たとえば毎週のように、食べているという人を寡聞にして知らない。新宿に「アカシア」というロールキャベツの名店があるが、月に一度いけば多い方だろう。さて、最近キャベツを食べたのはいつだっけ、と思い出してみる。と、昨日食べたぞ。トンカツだ。キャベツの千切りがとんかつにはつきもの。さらにトンカツ屋ではたいていの場合、キャベツのおかわりは自由だったりするではないか。トンカツの方がお好み焼きよりもキャベツの消費を牽引するのではなかろうか。

そこで、今度は豚肉の消費量を調べてみたところ、1位相模原市、2位新潟市ときている。実は、豚肉の消費は東高西低で、21位までは、広島市と岡山市のふたつを除き、すべて東日本の都市で占められている。ほら、思ったとおりでしょ、と冴えた推理に、満足気にあごひげを撫でながら、改めてしげしげとキャベツのランキングを眺めてみると、3位以下は東西が入り乱れており、キャベツと豚肉の消費にそれほどの相関関係があるようには見えない。薄目で見ればほんのりとそれらしき「傾向」があるようにも見えるけれど、気のせいだよと言われればそうとも思える程度のほんのり加減なのである。

キャベツの消費が、お好み焼きともとんかつともそれほどの関連がないとすると、一体どのようにして消費されれているのだろう。けっこう大きな謎1)である。

1 ちなみに「はくさい」は見事なまでに西高東低で、トップ16までを、浜松を除き、西日本の都市が占める。西日本の鍋物好きとキムチが主因ではないか、と言われているようだ。

にしんそば

関西育ちのせいか、「にしんそば」には馴染みがあり、日本中どこでも食べているものだと思っていた。それがどうやらそうではない、と気づいたのは15歳で茨城県に引っ越してからである。駅の立ち食いそばでも、町中の普通の蕎麦屋でも、品書きに「にしんそば」が見当たらないのだ。少なからずの人から「にしんそばを知らない、食べたことがない」と言われてビックリした。「にしんそば」は、主に北海道と京都(および関西)で食べられているもので、決して全国区ではない1)のだと思い知らされた出来事だった。

埼玉や茨城出身者に聞いてみると、関東にもニシンがないわけではないけれどが、正月の昆布巻の中にちんまりと入っているくらいで、食べる機会はほとんどないという。とはいえ、関西ではニシンを日常的に食べているか、といえば、それもちょっと疑問で、僕の両親は関西の出身ではなかったので関西の食習慣を代表することはできないまでも、ごはんのおかずに時々ニシンを食べている、という友人はいなかったように思う。いずれにせよ、僕にとってニシンは、ほぼ100%「にしんそば」2)として食べるものであった。

数年前、小樽に旅行したときに、保存されている「鰊御殿」を見に行った。「鰊御殿」というのは、明治末期から大正にかけて、ニシン漁で財を成した網元3)が建てた豪勢な家屋である。この鰊御殿のある祝津漁港には、干したものではなく生のニシンの塩焼きを食べられる海鮮飯屋がいくつかある。おお、これは珍しい、と喜んで食べてみたところ、あら、びっくり。焼き魚で食べるニシンはそれほど美味しいものではなかった。身は水っぽくて妙にやわらかく、旨みもそれほど強くない。江戸・明治期には、大半を鰊粕という肥料にして利用したのも頷ける。「にしんそば」に乗っているニシンの独特な旨みは、干したものを戻して甘露煮にするからこそ生まれるものだったのだ。

1 最近では東京でもずいぶんと見かけるようになった。
2 うどん文化圏の関西でも、なぜか「にしんそば」は必ず蕎麦であり、「にしんうどん」というものを見た記憶がない。
3 主に北海道の日本海沿岸