Forever Man (Eric Clapton)

エリック・クラプトンの、ヤードバーズ以来の長いキャリアの中で、僕は80年代から90年代にかけて1)のソロ作品が一番好みである。ギターについては何よりもその唯一無二の音色が魂を震わせる。まさに「エリック・クラプトン」という音色であって、ギターが、アンプが、テクニックがどうのといった技術論はどこか「机上の空論」の虚しささえ感じさせてしまう。その音は、余人の到達し得ない巨大な「素数」というか、因数分解を許さない次元の凄みがある。ギターと同じくらい魅力的なのが彼のボーカルだろう。ギタリストとしての評価が先行したが、キャリアの中盤以降、彼の声の魅力はギターと切り離すことはできない。歌とギターが継ぎ目なく一体となって音楽を編み上げてゆく魅力は、ブルーズギタリストの王道2)とも言える。とくに80年代後半からはアルバムごとにボーカリストとしての魅力が増しているように思う。

「フォーエヴァー・マン」は85年発売のアルバム「ビハインド・ザ・サン」に収録。このアルバムはフィル・コリンズがプロデューサー兼ドラムス・パーカッションとして参加3)しており、従来よりもポップな音、曲調にまとめられているので、ファンの中でも好き嫌いが分かれる。「フォーエヴァー・マン」はシングルカット用の曲を入れる必要から制作されたようで、作曲はクラプトンではなくJerry Lynn Williams、プロデューサーもフィル・コリンズではない4)けれど、クラプトンの魅力をよく引き出していると思う。ドロップDチューニング(ギターの6弦開放をE音ではなくD音に下げたチューニング)をうまくつかった印象的なイントロのリフ、そしてボーカルのAメロ(最初のフレーズ)が素晴らしい。のっけから高音部をちょっと気張ってシャウトっぽく発声するクラプトン節炸裂である。でも、何より心に突き刺さってくるのは、ギターソロの第一音のチョーキング。もうこの音、このチョーキングだけでご飯3杯食べられます、くらいの代物で、タイミング、音色、とてもマネできるものではない。技術的にはロックギターの基本中の基本ともいえるチョーキングだが、それ一発をここまで聴かせるギタリストっていない。生きるレジェンドたる所以である。

1 この年代は、MTVの隆盛とともに「ロック」というジャンルが最も元気だった時代だ。英国のミュージシャンは米国でのセールスを意識せざるを得ず、良くも悪くもアメリカ向けにややポップでわかりやすい曲作りを求められることが多かった。
2 ゲイリー・ムーアもまさにこのタイプだ。
3 次のアルバム「August」もフィル・コリンズのプロデュース。さらに次の「Journeyman」でもドラムス、コーラスとして参加している。
4 ちなみに、ドラムスはTOTOのジェフ・ポーカロ、バッキングのギターはスティーブ・ルカサーが弾いている。