MOVE(上原ひろみ・ザ・トリオ・プロジェクト)

ジャズ、それもギターの入っていないジャズにはほとんど興味を惹かれることはないのだが、このトリオだけは別。なんせドラムがサイモン・フィリップス御大なのだ。サイモン・フィリップスといえば、ロック、ハードロック分野のビッグネームとの共演で広く知られている。ジェフ・ベック、マイケル・シェンカー、ゲイリー・ムーア、ジューダス・プリースト、ホワイトスネイク、ミック・ジャガーなどなど挙げればキリがない。セッション以外では、急逝したジェフ・ポーカロの後任としてTOTOのドラムを2014年まで20年に渡って担当。ジェフ・ポーカロの、端正で繊細なドラムにとって代われるとしたら、サイモンしかいない、とファンの誰もが納得の人選だった。

この人が叩くと何かが違う。ドラミングの切れ、タイトさ、グルーブ。曲とバンドをもうひとつ上のレベルに押し上げる何かがある。常人離れした技術1)を持ちつつ、でも同時に、そのドラミングはどこまでもストレートで、出しゃばりすぎることなく、余韻と余裕を残している。

そのサイモン・フィリップスをドラムに、アンソニー・ジャクソンをベースに配した上原ひろみのプロジェクトがザ・トリオ・プロジェクト。このトリオのライブを国際フォーラムとブルーノート東京で観たことがあるけれど、もう圧巻の一言。上原ひろみのピアノは、若さのパワーが漲っていて、アタックの効いた強い音から、優しく繊細な音まで表現の幅が広い。それを円熟のおっさん二人が盛りたて、いなし、煽り、押さえながら、それぞれが超絶プレイで応える。ジャズらしい変拍子がくるくると入れ替わる曲2)も、一瞬たりともグルーヴが途切れることなく、大きなうねりが会場を包み込む。ジャズというより、ロック的なグルーヴに近いかもしれない3)

コンサートを観に行くと、自信過剰にも、僕も死ぬほど練習すればこのくらい演奏できるようになるかな、などとぼんやり考えたりすることがある。でも、この3人の場合、同じ「ヒト」の地平にいるとはとても思えず、どう逆立ちしてもこのレベルに到達することなど想像すらできない。

1 一応右利きのようだが、左でハイハットを操るオープンスタイル。ツーバスも左右両方で魔法のように複雑なビートを刻むので、プレイを見ていてもどこを叩いて音が出てきているのかわからず手品を見ている気分になる。
2 あれだけの変拍子の中で、ソロやアドリブパートの終わりに、とくに拍子を数えてる様子もなく、どんぴしゃで3人が合わせられるというのが神業で、もう何がどうなっているのやら。
3 かつてTOTOのギタリスト、スティーブ・ルカサーが「ジャズのセンスでロックする」と言ったが、このトリオでは「ロックのセンスでジャズをする」だと思う。

Georgy Porgy (TOTO)

TOTOを初めて聞いたのは多分高校2年か3年の頃だったと思う。エレキギター1)を買って友達とロックバンドを組んだ頃だ。最初は初期のハウンドドッグとか甲斐バンドあたりのコピーから入った。そのうちギタリスト中心に洋モノバンドを物色し始めた頃に聞いたのではなかったか。

「Georgy Porgy」は、1978年発売のファーストアルバム2)の3曲めに入っている。ギター少年としては急速にハードロックに傾倒しつつあった頃なので、妙にジャズっぽいというかR&Bっぽいというか、なよなよした感じが嫌いで、アルバムを聞くときはこの曲を必ず飛ばしていた3)。そうでなくとも、なんせこのファーストアルバムにはロックチューンの名曲がそろっている。1曲めのインスト「Child’s Anthem」から、今でもTOTOのライブで頻繁に演奏される「I’ll Supply the Love」「Girl Good-bye」「Hold the Line」とくれば、そっちを練習するのに精一杯。ギター少年にとって「Georgy Porgy」が退屈だったのも仕方がないと言えよう。

ところが、ずいぶん経って、92年に発売された「LIVE」というコンサートビデオ4)に収録されたバージョンを見て腰を抜かした。格好いいのだ、これが。リズム裏打ちで始まるオープニングからDavid Paichのソロっぽいイントロ、Steve Lukatherのヴォーカルも迫力がある。ギターソロもスライド・バーを使わずによりロックっぽいアプローチで弾いている。早速Valley Artsのストラト(もちろんルカサーモデル)で真似して弾き始めたりして、そこから急にお気に入りリストに不動の位置を占めるようになったのだった。速弾き原理主義にのめり込んでいたギターおたくが少しだけ大人になった瞬間である。今ではアルバムのオリジナルアレンジもいいなぁ、などと思っている。

 

1 トーカイの赤いストラトキャスターのコピーモデル、たしか4万5千円。
2 オリジナルのアルバム・タイトルは「TOTO」だが、邦題として「宇宙の騎士」というふざけた名前がついている。アルバムには「宇宙」も「騎士」も全く関係ない。多分、ジャケットの紋章からの連想なのだろう。この頃は洋楽に妙な日本語タイトルがついているのはごくあたりまえだった。
3 もちろんカセットテープを早送りする。
4 90年の PAST TO PRESENT ツアー、パリ公演の模様を収録したライヴ映像。このときのVoは第4代のジャン・ミッシェル・バイロンだが、全くバンドにフィットせずあっという間にいなくなった。「LIVE」の編集でも(その後のTOTOの歴史でも)、あたかも存在しなかった人のように扱われている。