Don’t Tell Me You Love Me (Night Ranger)

ツインギターのハードロックバンドは数あれど、ナイト・レンジャーほどの「完成度」を誇るバンドはなかなかない。ここでいう「完成度」は、主にギタリストふたりのテクニックとオリジナリティ、役割分担、ギターソロの構成と難度を指していて、バンド全体の完成度とか曲のよさ、みたいなものはちょっと脇に置く。

82年発表のデビューアルバム「ドーン・パトロール」(原題 「Dawn Patrol」)のオープニング曲「ドント・テル・ミー・ユー・ラヴ・ミー」(Don’t Tell Me You Love Me)からツインリードが炸裂する。ハードロックとしては何の変哲もない前半を過ぎ、ギターソロパートに入った途端、当時のギター少年はみな口をあんぐり開けて呆然としたものだった。

ギターソロ前半はブラッド・ギルスで、当時出たばかりのフロイドローズ1)を使わないと絶対にできないピッチ変化極大のアーミングをフルに使ったソロを披露する。弦のテンションがゼロ(弦がベロベロに緩んだ状態)近くまでアームダウンした状態からハーモニクスで倍音を出しつつ今度は2オクターブ以上上までアームアップしていき、シンセサイザーのピッチシフトをつかったような音程変化をギターで叩き出す。正確なピッキングで速弾きもこなすが、フロイドローズの申し子のような多彩なアーミングがトレードマークだ。

後半はジェフ・ワトソン。ブラッドとは「正反対」にレスポール使いでアームは使わない。その代わり、と言っては何だが、超高速・正確無比なピッキングで機械的な繰り返しフレーズを中心にソロを組み立てている。複数弦にまたがった弦飛びのピッキングが必要で、ギタリスト的には最高難度といっていいフレーズが次々飛び出す。さらにセカンド・アルバムからは、左右合計8本の指先をフルに使ったタッピング(ライトハンド)奏法も披露している。ギターソロ構成はブラッドの「柔」とジェフの「豪」それぞれのソロパートの後に、ふたりのハーモニープレイ(それもけっこうな速弾き)が続くというのが王道だ。

おもしろいことにボーカルもジャック・ブレイズ(B)とケリー・ケイギー(Dr)のツインリードで、曲調によってボーカルが変わり、ハモりも美しい。こうした「ツイン」をふた組フィーチャーしたオリジナリティあふれるバンドの「かたち」は、デビューアルバムにしてすでに100%完成されていたが、皮肉なことに、全米トップ10に入るヒットは、「シスター・クリスチャン」「センチメンタル・ストリート」などバンドの「本領」とても言えないような甘ったるいバラードが先行した。このため、レコード会社の売り方とバンド本来の「音楽性」が乖離してしまったのが、このバンドのある種の不幸だろう。

1 彼はいまだにチューニング調整機能のない「初代」のフロイドローズを愛用している。