イングヴェイ・マルムスティーンが彗星のようにロック・シーン現れたのは僕が予備校生の時だ。グラハム・ボネット率いるアルカトラスの「ヒロシマ・モナムール」は衝撃的だった。ゆったり物哀しいフレーズから突然堰を切ったように炸裂するクラシカルな超高速ソロは多くのギターキッズを虜にした。
だがイングヴェイが与えた衝撃は、そのギタープレイに留まらなかったのである。ある日、予備校のラウンジで友人と喋っていたところ、入り口のガラス扉から、高校時代の知り合いが颯爽と現れた。黒いスリムジーンズに、白のブーツ、胸辺りに昔の貴族風のフリルがあしらわれたシルクっぽい黒のドレスシャツに、黒のライダースジャケットという出立ちで、なぜかギターケースまで肩に背負っている。その姿は、つまり、イングウェイ100%そのまんまであった。スタジオやらライブ会場であればともかく、予備校のラウンジでの違和感たるや、あたかも足ひれ・ボンベにウェットスーツのスキューバダイバーが沖縄の海から何かの拍子に時空転移してきたかのようだ。しばらくすると予備校の事務員が出てきて、彼は事務室の奥に連れて行かれた。後で聞いた話によると、予備校には勉強するのにふさわしい服装で、ときつく注意されたらしい。
ファッションセンスはともかく1)、クラッシック・スケールを超高速で弾くギタリストは、彼のデビュー以降、すべからく「イングヴェイのコピー」と形容されるくらい、今に至るまで強烈な存在感を見せつけている。ところで、一見すると、同じスキャロップド2)・ストラトキャスター+シングルコイルピックアップ+マーシャルアンプの組み合わせだけれど、リッチー・ブラックモアの音とイングヴェイの音って随分違う。リッチーがガラスを引っ掻くようなキーキーした若干耳障りな音で、ソロの音程も不安定に揺れる傾向があるのに比べて、イングヴェイはよりスムーズで艶のある美しいオーバードライブサウンドで、音程も寸分の狂いもなく安定している。