ムー

月刊「ムー」。UFO1)やUMA2)、謎の秘密結社やらあの世やら、陰謀論もトンデモ論も、なんでもありのオカルト雑誌である。学研という教育畑の出版社から出ている、というと意外だと思う人もいるかもしれない3)。この雑誌はけっこう歴史があって、創刊は1979年。創刊されてすぐの頃、本屋でよく立ち読みした記憶がある。

73年3月に「日本沈没」(小松左京著 光文社)、11月に「ノストラダムスの大予言」(五島勉著 祥伝社刊)が空前のベストセラーになってからというもの、70年代はオカルトが堂々と世間を賑わした時代だった。僕ら小学生は、ユリ・ゲラーと一緒にスプーンを曲げる練習をし、川口浩の怪しげな探検をテレビで見てドキドキし、公園の植え込みでツチノコを探し、コックリさんに好きな人に告白すべきかどうかを相談し、口裂け女に会わないように用心しながら学校から帰った。「ムー」はこの時代の空気感をそのまま極彩色で保存したような雑誌で、今も続いているのはちょっとした奇跡だと思う。

ずっと通っている近所のヘアサロンが、どういうわけだか、4、5年前から「ムー」を毎月買っておいている。懐かしいねー、なんて言いながら最初は冗談半分で読んでいたのだが、子供の頃の刷り込みは強力で、気がつくとグーグルアースに写ったUFOの基地やら、フリーメーソンと古代神道の関係やらといった記事を熟読している。そのうち、お店の人からも「ムーですよね。最新号買っておきました!」と選択の余地なくピンポイントで手渡されるようになり、すっかりムーおじさんとして認知されている様子である。ムーおじさんって相当ヤバイ人じゃないか、と我に返り、最近ではもっぱら「Pen」とか「dancyu」を読んでイメージ回復に努めている。

1 unidentified flying object = 未確認飛行物体。れっきとした英語。
2 unidentified mysterious animal = 謎の未確認動物。こちらはちょっとヘンな和製英語。
3 学研という出版社はときどきこういうあさっての方向からの出版物を出す。BOMB(ボム)もそうだ。