コガネムシ

もうずいぶん前のことになるけれど、出張で、大阪・梅田にあるウェスティンホテルに泊まった。ひとりで夜、ふらりとホテル内のバーに行く。出張先でホテルのバーに行くのは楽しい。カウンターにひとりなら気を使わなくていいし、バーマンが手際よくカクテルを作っているのを眺めながら、ひとときぼーっとする。普段とは違う土地にいるのだ、という感覚が体に馴染んでくるような気がする。

その夜、カウンターはすでに埋まっていて、テーブル席に案内された。隣のテーブルに、夜の店の女性と思しき色気のある女性が二人、その客らしい男性が一人。女性は30代後半か40代はじめくらい。北新地の高級クラブのホステスさんかもしれない。男性の方は、50代後半くらいで、くっきりしたストライプのスーツと、エナメルみたいに妙にピカピカの靴。勤め人というより自分で商売している「社長」という雰囲気で、なんとなく品のない、典型的な大阪のおっちゃんという雰囲気。

おっちゃんが、馴染みらしきバーテンダーに、「わしのボトル持ってきて~」と頼むと、テーブルの上には、おっちゃんがキープしているボトル(なぜか全く同じシーバスリーガル)が3本並んだ。さらに、ボトルの前に、自分が持っているゴールドのクレジットカードを4、5枚ほどこれみよがしに並べた。テーブルの上半分が金ピカに輝いてた。おまえはコガネムシか。

女性に対して、「ワシ金持ってまっせ~」というディスプレイが、ここまであからさまだとむしろ清々しいとすら思える。発情期の野生動物のオスを観察しているような気分とでも言えばよいのか。あ~、今大阪にいるんだなぁ、とシミジミとしたひとときであった1)

1 大阪以外ではなかなか見ない光景だと思うけれど、少年時代を大阪で過ごしたせいで、三つ子の魂というべきか、こういう人を見ると懐かしさを覚える。