古河花火大会2019

昨年に引き続き、今年も古河の恒例花火大会を見に行ってきた。父の住む部屋はマンションの最上階でベランダが渡良瀬遊水地のほうを向いており、天空にいっぱいに開く花火を見る特等席である。今年は8月3日の土曜日に、3尺玉2発を含む約2万200発が打ち上げられた。全国でも最大規模の花火大会のひとつだ。

花火の世界も新しい技術や技法が日々生み出されているようで、去年とはまた違った色合いと輝き、複雑な動きのある新しい花火が、定番のスターマインなどとともに盛大に打ち上げられた。気象条件もあると思うが、今年は青の発色がひときわ鮮やかだったように思う。写真だといかにもデジタル加工したように見えるが(実際、オリンパスの「ライブコンポジット」1)というデジタル技術を使ってはいるが)、目で見た印象をわりと忠実に再現できていると思う。

1 カメラはオリンパスOM-D E-M5 Mark II

古河花火大会

夏になると、日本全国で300以上の花火大会が開かれるが、3尺玉の花火を打ち上げるのは、実は数えるほどしかない。3尺玉というのは、重さ300キロ・直径90センチの玉で、600メートル上空まで打ち上げられ、直径650メートルの巨大な花を開かせる。打ち上げるために、広大なスペースが必要なため、都内では場所がないそうだ。

古河の花火大会は毎年8月の最初の土曜日に開かれる。広大な渡良瀬遊水地に面しているので、打ち上げ会場には困らない。今年は8月4日の土曜日に開催され、3尺玉2発を含む2万発が打ち上げられた。全国でも最大規模の花火大会のひとつだ。河川敷に座って夜空を見上げるのもよいが、去年と今年は父が住む駅前のマンションのベランダから見物した。最上階の7階で遊水地側に眺望が開けて見晴らしが良い。少し距離はあるけれど特等席なのだ。

3尺玉はクライマックスで打ち上げられる。玉は黄色い光の尾を曳きながらどこまでも上がっていき、他の花火よりひときわ高い位置から、無数の黄金色の糸が傘のように広がって、光の航跡を天空いっぱいに広げ、ゆっくりと落ちてくる。光から少し遅れて、ズンという地響きのような、他の花火とは異質な野太い音が腹に響く。

3尺玉以外の花火も素晴らしい。およそ1時間に渡って様々な花火が次々と打ち上げられる。花火の世界も技術革新が進んでいるようで、大きさだけでなく、以前はあまり見ることのなかった透明感のある青い光のもの、開いた球の円周上を衛生のように色とりどりの光が走るもの、天空に小さな花びらが一面に散るように開くものなど、毎年新しい趣向が凝らされている。まさに天空のスペクタクルで、時間があっという間に過ぎてゆく。

花火大会の費用がどれくらいなのかわからないが、きっと数万人(あるいはもっと多く)の人が夜空を見上げ、歓声を上げ、夏の風情を感じ、綺麗だね楽しいねと家族や友達と頷きあい、素敵な夏の思い出をつくったことだろう。そう考えれば、数億円かかったとしても、最高のカネの使い方だと思う。

鯉のあらい

中学校3年のときに、関西から茨城県の古河1)という町に引っ越した。県の西の端っこにぽつんと飛び出したように位置する。埼玉、栃木、群馬、茨城の4県が接するところで、自転車にまたがれば10分以内に4県をまたぐことができる。利根川と渡良瀬川が合流する「渡良瀬遊水地」に隣接している。江戸時代には有力譜代の古河藩が置かれた歴史ある町である。

この町には鰻屋が多かった。それまで住んでいた大阪郊外の新興住宅地にくらべれば「すごく」と言っていいほど多かった2)。引っ越した当初、関西と関東の食文化の違いに戸惑った少年は、「何でこんなに鰻ばっかり食うとんねん」と大阪弁でつぶやいたくらいだ。

この数多くの鰻屋がみな、ウナギだけでなく、コイやフナ、ドジョウやナマズといった川魚の料理も出すのだ。古くから、日光街道3)の宿場としても栄えたせいか、何代かに渡って営業している由緒ある割烹や料亭もあって、そういう店でも出す。それもそのはず、古河の名物は鮒の甘露煮で、贈答品としてよく使われている。利根川・渡良瀬川がそばにあるので、そこでとれた魚を古くから食べてきたのだろう。

川魚は、海の魚に比べて、どうしても泥臭さがあるので、臭み消しを兼ねて、味噌や醤油で甘辛く煮て食べることが多い。鯉こくや鮒の甘露煮が典型だ。鰻は別として、そういった川魚料理は、子供には決して美味しいものではなかった。食べ慣れていなかったせいもあるだろうが、茶色くて、しょっぱくて、ドロっぽかった4)

そんな中、鯉の洗いだけは別で、赤みがかったお造りのようなコイの身は美味しかった。最近までどうやって作るのか知らなかったのだが、刺し身のように薄くおろしたコイを、80度くらいの熱湯にくぐらせたあと、氷水でキュッと締めるらしい。それを酢味噌やからし味噌で食べる。コイは新鮮なものに限る。かと言って、そのへんで釣ってきたものでは、泥臭くて5)食べられたものではなく、店で出すのは養殖されたマゴイだそうだ。

最近、鮒の甘露煮をもらったので、久しぶりにちょこっと箸をつけてみたところ、あら、意外と美味しいではないか。たぶん歳をとって味覚が変わったからだろうけれど、日本酒のお供によい。別エントリーに書いたけれど、こうしておっさんは年とともに若い頃には食べなかったようなものが、どんどん美味しくなっていくのである。

1 「こが」と読む。「ふるかわ」ではない。
2 この図でもわかるが、鰻屋は福島以南の関東と九州に多い。
3 現在の国道4号線
4 同じ川魚の甘露煮でも、鮎の甘露煮となると実に上品で美味しい。鮎は清流で石についた苔を食べているせいだろうか。
5 コイヤフナは泥ごと吸い込んでエサをとるからだろう。