3. 下道荘
今回の宿泊は、民宿「下道荘」(したみちそう、と読む)。これも姪っ子のオススメである。さんさん商店街のある志津川から小さな岬をひとつ隔てた東側、袖浜漁港を見下ろす高台にある。宿のウェブサイトによると、元の建物は津波で流され、高台に移転・再建して2012年2月に再オープンしたそうだ。宿の主人・若主人は漁師で、鮭、ホタテ、タコ、牡蠣、ホヤを始めとする自家採りの海の幸が食べられる。
南三陸域は日本一のホヤ産地だが、実は今までホヤというものを食べたことがなかった。そもそもあまり食べる機会もないけれど、周囲に聞いても、クセがあって苦手だという人ばかりで、積極的に食べようとしなかったこともある。でも今回は、ちょうどホヤのシーズン終盤でもあるし、心中ひそかに期待していた。夕食の膳には期待通りホヤの酢の物がのっている。おそるおそる口に運んでみる、と、貝のような食感に複雑な旨味がひろがる。ホヤ独特の風味は旨味の一部としてきっちりとあるのだけれど、よく言われる「臭み」や「クセ」という表現はあたらない。産地の新鮮なホヤだからこその美味しさなのだろう1)。お膳には、もちろん、ホヤ以外にも海の幸がたっぷりで、のばした箸の先がみな美味しい。こうなると牡蠣も食べたいが、シーズンにはわずかに早すぎて今回はおあずけ。
4. 女川町
二日目は、まずホテル観洋の立ち寄り湯へ。さんさん商店街からは、志津川湾沿いを南下してクルマでわずか3、4分。海沿いの断崖に立つホテルで、津波のときも直接の被害は免れたという。ここには温泉があって、宿泊していなくても820円で入浴できる。志津川湾を一望する露天風呂からの風景はすばらしく、遙か対岸にさんさん商店街のある志津川地区が見える。ゆっくりと温まってから、太平洋沿いの398号線を南下し、女川に向かう。1時間10分から20分くらいのドライブだが、くねくねとカーブが続き、上り下りの多い道なので、クルマに弱いひとは酔い止めを飲んでおくとよい。
女川には、たぶん30年以上前に一度来たことがある。経緯はすっかり忘れてしまったが、金華山神社に行くのに、女川から船に乗ったのだ。漁港を中心にそれを取り囲むように港町が広がっていたのをおぼろげに覚えている。震災で壊滅的被害を受けた女川町もまた復興途上にあるが、その方向性は南三陸町とは少し異なっているように見える。高い防潮堤を作らずに海への眺望を確保しつつ、住居区域は津波が到達しない高台に移し、商業地域は港に近い低地に集中させるという区分けが比較的はっきりしているのだ。
南三陸・女川旅行記(3)に続く。