近江町市場を歩くとどうしても新鮮な海産物に目を奪われるけれど、奥へ奥へと進んでいくと野菜を扱っているお店も少なからずある。金沢には藩政時代からずっと栽培され、地元で親しまれてきた野菜があり、こうした野菜を「加賀野菜」としてブランド化し、残していこうとしている。
「加賀野菜」について知るきっかけになったのは、たまたま入った居酒屋で食べたさつまいもの天ぷらだった。紅い皮はつけたままじっくりと丁寧に揚げられたさつまいもは、白黄色の身がほくほくとして驚くほど甘かった。これが「五郎島金時」というさつまいもで、加賀特産だったのである。五郎島金時は、主に金沢市の五郎島・粟ヶ崎地区や内灘砂丘で生産されている。およそ300年前、砂丘地で栽培できる作物がなく不毛の地だったところ、似た地質の土地で栽培されていたサツマイモを太郎衛門という人物が薩摩の国から持ち帰り、育てはじめたのが五郎島金時の始まりらしい。収量よりも質を重視し、米ぬかを使った専用の肥料で育てられている。
五郎島金時以外にも、金時草という菜っ葉(きんじそう、と読む。表が緑、裏が紫色。ゆでるとぬめりがでる。茹でて三杯酢でさっぱり食べるとうまい)、金沢春菊(春菊の一種だというが、普通の春菊のようなほろ苦味は全くなく、サラダ菜のような感じで生食する)、加賀れんこん、源助だいこんなど15品目が加賀野菜としてブランド認定されているようだ。
これらの加賀野菜は、市場でも買えるが1)、郷土料理の店や居酒屋でも楽しむこともできる。僕が「五郎島金時」を食べたのは、「いたる」という居酒屋の香林坊店。飛び込みで入ったのだが、実は金沢でも1,2を争う人気店だった。まだ早い時間だったから入れたのだろう。入ってすぐに、ああこれはあたりだいい店だ、とわかった。老いも若きも、男も女も、皆穏やかに楽しそうに過ごしている。店の人の対応はきびきびとして心地よい。壁の黒板に書かれたオススメ品やメニューには、控えめな自信のようなものが漂いつつ、それでいて一切押し付けがましくない。五郎島金時でつくられた芋焼酎もある。柔らかでクセがなく上品で、料理とケンカしないいい酒だと思う2)。五郎島金時以外にも、金時草のおひたし、加賀れんこんのあんかけなど加賀野菜を使った料理や、かぶらずし3)や治部煮4)といった郷土料理もよい。