「死都日本」
石黒 耀 著(講談社文庫)
鬼界カルデラに直径10キロの巨大な溶岩ドームが形成されていることが確認されたというニュース。鬼界カルデラは7300年前に巨大カルデラ噴火を起こし、九州一帯の縄文文化や生物相を根こそぎ破壊したことで知られるが、それが依然活発に活動していることが明らかになったわけだ。
「死都日本」は、今の霧島火山があるあたりにあった加久藤カルデラ(鬼界カルデラと阿蘇カルデラを結ぶ線上のほぼ中央1))で、30万年の時間を経て、現代に再び破局的噴火が起こったらどうなるのか、というシミュレーションを中心に据えた小説である。
破局的噴火(カルデラ噴火)の規模がどれほど甚大でありうるのか、噴火の前兆から噴火、さらにその先に時系列でどういった災害が引き起こされるのか、など、綿密で科学的見地を踏まえた構成は、息を呑む迫力。久しぶりに寝る間もなく読み通してしまった。
二千年に満たない人類の火山学で、齢百万年を越す火山の生死を正確に判断できるのであろ うか?三十万年くらい活動が無くても、火山にとってみれば「ちょっと昼寝をしていた」という程度の感覚でしかない場合は無いだろうか?(第3章 水蒸気爆発)
著者は、戦後日本が推し進めてきた国土開発(と繁栄)は、日本の国土の地学的条件を無視したもので、いつか自然から手痛いしっぺ返しを食らうのではないか、という問題意識2)を強く持っていて、作中でも登場人物に何度か語らせている。本作は2011年の東日本大震災よりも前に書かれたものだが、3.11の経験がまだ生々しい今、(著者の考えに賛成するかどうかは別としても)いろいろ考えさせられる。