クルマや飛行機ではあまり乗り物酔いしないのだが、船だけは全く駄目だ。乗って数分ですでに酔いの予感があり、その後、強弱はあれどまず間違いなく吐き気に襲われる。船が大きくても小さくてもあまり違いはない。小型の渡し船のようなもの、中型のフェリー、双胴の観光船、大型客船、みな同じだ。
引き金になったのは、18歳か19歳のころに船で行った大島だった。大島行きの船は、夜に竹芝桟橋を出港して、翌朝大島に到着する。波・うねりの高い日だった。乗船してしばらくは、はじめての船旅で興奮し、酔うなんて思いもしなかったが、船が東京湾を出たとたん、うねりに大きく揺さぶられ、みるみるうちにやられてしまった。一緒に行った仲間のほとんども、さらには乗客の多くも手ひどくやられ、消灯して薄暗い船内では、酷い船酔いで動けなくなった人たちが、エチケット袋片手に累々と倒れているという地獄絵図を見ることになった。それでも、目的地に向かって進んでいるならなんとか気持ちの持ちようもあるけれど、船は沖合で数時間止まって時間調整をしてから大島に向かうというスケジュールで、進んでいる実感もエンジン音もなく、ひたすら数時間うねりに耐えるという理不尽さが、船酔いをさらに悪化させたように思う。
これがトラウマになって、船が決定的に苦手になった。元海上自衛隊の知人に聞いた話だと、自衛隊の新兵でも、船酔いに弱いタイプがいて、数週間から数ヶ月の訓練航海に出ても、その間のほとんどを、自分のバンクベッドで半死人のように横たわっているだけということもあるらしい。想像するだに地獄だが、悲しいかな僕はその半死人グループに100%入る自信がある。揺れに慣れる場合もあるが、内耳の問題で全く対応できない人もいるそうだ。
ハワイでサンセットディナークルーズに乗ったときもヒドい目にあった。その時は一緒に行った友人がどうしても、というので、仕方なくつきあったのだった。酔うのがわかっていたので、酔い止めのクスリを規定の倍量飲んで乗船した。クスリのおかげか、「お、これは意外と大丈夫じゃないか」と上機嫌だったのは最初の30分ほどで、その後は飲みすぎた酔い止め薬のせいで、アタマが朦朧とし、凶悪な眠気に襲われ、ディナーの前にすでにベンチで熟睡する始末。結局3時間のクルーズのほとんどを泥酔した人のように前後不覚で過ごし、船酔いこそ回避したものの、人間としての尊厳を喪失し、ほとんど荷物と化して船中を過ごしたという点では、何ら改善を見なかったのであった。
乗り物酔いは、内耳が感じる平衡情報と視覚からの情報がずれてしまい、自律神経が参ってしまうのが原因のひとつだというが、考えてみると、VRも全く駄目だ。ディズニーリゾートの「スター・ツアーズ」でも気分が悪くなって途中離脱を余儀なくされるくらいだから、こういうズレにけっこう弱い方なのだと思う。自律神経の問題と船酔いのトラウマが合わさっているとすれば、克服への道のりは遠い。