Quay West Suites Sydney

「シドニーらしい」眺望といえばやはりシドニー湾。そして望むらくはオペラハウスとハーバー・ブリッジの両方あるいはどちらかが見える部屋がいい、となるとロックス地区かサーキュラー・キー周辺のホテルを探すことになる。眺望が期待できるホテル、となると、シャングリラ、フォーシーズンズ、やや離れるがマリオットあたりが候補に上がる。といっても、シドニーのホテル料金はニューヨーク並といっていいほどに高騰していて、シャングリラ、フォーシーズンズのハーバービューの部屋だと一泊5万円前後、時期によってはそれ以上を覚悟せねばならない。

キー・ウェスト・スイーツ・シドニー(Quay West Suites Sydney)は、シャングリラとフォーシーズンズの間に地味に建っている高層ホテルだ。Accor Hotels という日本ではあまり展開していないホテルグループに属しているので、日本での知名度は高くない。名前の通り、部屋はキッチン付きのアパートメントタイプで、長期滞在型のホテルである。部屋ごとの単価はシャングリラ、フォーシーズンズより少し安いくらいだが、人数が増えるとおトク感がぐっとアップする。旅行も長くなると、外食ばかりでは飽きるしお金もかかるが、キッチンがあるだけで食事が美味しくかつ安上がりですみ、さらにはシドニーで生活しているような気分も楽しめる。近くのスーパーでオージービーフのでかいのを買ってきて自分で焼いて豪快に食べるといった楽しみを満喫できるのがよい。

さらに、このホテルの何よりの魅力は、窓の外に広がる息を呑むような素晴らしい眺望1)だ。眼下のサーキュラー・キーから右にオペラハウス、真ん中に豪華客船が停泊する国際旅客ターミナル、その奥にハーバー・ブリッジ。朝はハーバーの奥から朝日が昇り、夜は見事な夜景が展開する。シドニー港を大型客船が優雅に出入りし、水上バスが忙しく発着する様を眺めながら、読書するもよし、仕事するもよし、ビールを飲むもよし。リビングが広く、ベッドルームが別になっているせいもあって、部屋に一日いてもストレスを感じない。

1 もちろんハーバービューの部屋を予約する必要がある。

クイーンエリザベス

晴れている日にロックス地区(The Rocks)の高台から見下ろすシドニーの港は、西側にハーバーブリッジが伸び、東側にシドニー・オペラハウスが貝を重ねたような特徴的なシェイプを光らせる。クラッシックな様式の黒い橋と近代建築のマスターピースとも言える白いオペラハウスに挟まれた青い水面を多くの船が行き来する風景は、とても美しい。

シドニー滞在中のある朝、ふと見ると、国際旅客ターミナル(Overseas Passenger Terminal)にクイーンエリザベス号が停泊していた。全長がおよそ300メートル、幅が32m、総トン数9万トン。近くで見ると巨大ビルが海上に横たわっているかのごとき威容である。停泊しているのは2010年に就航した三代目だ。先代(二代目)のクイーンエリザベス2世号が横浜港にはじめて寄港したのは1975年のことで、当時ニュースなどでも大々的に取り上げられた。港まで見に行った横浜在住の叔父が興奮気味に「大きすぎて桟橋からはみ出しちゃってるんだよ」と話していたのを覚えている。以来、クイーンエリザベス号といえば、僕にとって(そして日本人の多くにとって)豪華客船の代名詞であり、特別な存在となったのだった。

そのときからずっと、無邪気にも数十年に渡ってクイーンエリザベスが世界最大の豪華客船だと思いこんでいたわけだが、実は、大きさで言えば、もうすでに世界のベスト30にも入っていないらしい。現時点で最大の客船は2018年3月に就航したシンフォニー・オブ・ザ・シーズ(Symphony of the Seas)で、全長はそれほど変わらないものの、幅が65メートル、総トン数は約23万トン。なんとクイーンエリザベスの2倍以上である。いつのまにかクイーンエリザベスは、中型、というか「豪華」客船としては決して大きくない存在1)になってしまっていたのである。

「世界最大」からは遠く隔たってしまったとはいえ、それでもクイーンエリザベスは大きく、優雅である。シドニー港はこのクラスの客船が毎日のように入出港しており、眺めていて飽きることがない。ハーバー・ブリッジをくぐった先にホワイトベイ・クルーズターミナルという埠頭もあって、大型船がアタマをかすめるように橋をくぐる様子を見ることもできる。こうして見ているとつい、ちょっと乗ってみたいなぁなどと思い始める。この大きさなら酔わないのだろうか。時化やうねりではやはり船室で寝たきり地獄になったりするのだろうか。ひどい船酔い体質としてはそんな心配をしてしまう。まぁ、いざ乗るとなったら心配すればよいのであって、今心配する必要はどこにもないのだが。

1 クイーンエリザベスの幅32メートルというのはパナマ運河を通過できる最大幅という制約からきているそうだ。つまり現代の巨大豪華客船はパナマ運河を通らない航路を使うということになる。