Knocking at Your Back Door (Deep Purple)

80年代にロックギターを練習していた世代にとって、「ハイウェイスター」と「スモーク・オン・ザ・ウォーター」はまず最初にコピーに励んだ曲だったはずだ。ロックギターにおける「バイエル」と言ってもよい。まぁバイエルといっても易しいというわけではなかったが、ハードロックの基本になるバッキング(リフ)やソロパートでの速弾きの基礎を練習・習得するにはよかったし、初心者バンドでもなんとなくカタチになる、それなりにサマになる曲であった。

この二曲は、ディープ・パープルの長い歴史の中では「第二期」、イアン・ギラン(Vo)、リッチー・プラックモア(G)、ジョン・ロード(Key)、ロジャー・グローバー(B)、イアン・ペイス(Dr)という布陣による演奏である。今、40代半ばより上の世代にとって、ディープ・パープルといえば、この第二期と、ボーカルがデイヴィッド・カヴァデール、ベースがグレン・ヒューズ1)に代わった第三期2)のことを指すと考えて良い。

問題は、この第二期、第三期は1970年から74年までで、80年代ギター少年にとってはリアルタイムではなかったことである。アルバム、とくに「ライブ・イン・ジャパン」のようなライブアルバムを聴いてくぅ~カッコいい~と思っても、バンドは迷走の末すでに76年に解散。レインボーやホワイトスネイクといった他のバンドでメンバーそれぞれは活躍していたけれど、本家ディープ・パープルは、伝説の巨星として雑誌記事とレコードだけを通じて見聞する、どこか靄のかかった幻のような存在だった。

そのディープパープルが84年に第二期のメンバーで再結成、「パーフェクト・ストレンジャーズ」というアルバムをリリースして復活を遂げる。僕は当時浪人中の予備校生だったのだが、バンド仲間だった友人が口角泡を飛ばしながらこの復活を熱く語っていたのをよく覚えている。このアルバムのオープニング「Knocking at Your Back Door」を聴いたとたん、凄い、本物はやっぱり違う、としみじみと感じ入ったものだ。霞の向こうから本物がくっきりと姿を現した瞬間だった。80年代半ばには、ヘヴィメタル・ハードロックがブームで、僕も、LAメタルと呼ばれたアメリカのバンドを中心に手広く聴いていたが、そのどれとも質も桁も違う、「貫禄」としか表現できないオーラが溢れていた。

ジョン・ロードの歪んだハモンドオルガンから始まり、ロジャー・グローバーのベースがリズムを刻み始め、意表を突くタイミングでイアン・ペイスのドラムがスタートする。リッチーのギターとハモンドオルガンのユニゾンのような分厚いメイン・リフにイアン・ギランの硬質でヤサグレた色のボーカルが重なってくる展開が、パープルの王道というか風格というか、とにかくカッコいいのだ。レインボーのエントリーで書いた通り、リッチーのギターソロは正直あまり好きではないけれど、楽曲の凄みの前にはそんなものは問題にならず、まさにハードロック史上に残る名作アルバムだと思う。

1 ベース&ボーカルと言ったほうが正確だが。
2 Burn(紫の炎)など

I Surrender (Rainbow)

リッチー・ブラックモアといえば、誰もが知るカリスマ的ギタリストであり、ロックにクラッシック音楽的(バッハ的)な音階を取り入れたパイオニアであって、後に続く多くのHR/HMギタリストに多大な影響を与えた。それはわかっているけれど、ギタープレイ自体は、どうも好きになれない。個性的なのはわかるけど、音程も安定しないし、多分にヒステリックで、音もどこかギーギーと神経に触る音だ。

一方、曲作りでは引き出しが多くて、リフやメロディ、曲の構成などにその才を発揮していると思う1)。レインボーは時期によって、指向性や曲調がずいぶん変わったので、人によって好き嫌いが時期ごとに別れる2)。「I Surrender」は、アメリカで売れることを意識していわゆる「売れ線」またはポップ寄りになったといわれる、かなり後期の曲。ボーカルはジョー・リン・ターナー。

この人はとてもいいボーカリストだと思うけれど、そのキャリアを通して、リッチーとイングヴェイにいいように使われる小間使い的キャラがついてしまい、かなり損をしている。実際はそうでないとしても、リッチーの様子を伺いつつ歌っているように見えてしまう。観ているこちらまで、曲を楽しむより先に、リッチーの機嫌の良し悪しを心配してしまい、どうにも落ち着かない3)

とはいえ、HR/HMでは年齢とともに歌えなくなる(高音がでなくなる)ボーカリストが多い中、今もパワーを保っているように見える。ソロ・プロジェクトの「Under Cover」と「Under Cover 2」では古今ロックの名曲をカバーしていて、なかなか聴きごたえのあるいいアルバムだ。

1 もちろんレインボーだけでなくディープ・パープルでも。
2 大別すれば、ロニー・ジェイムス・ディオがボーカルだった時期の中世的様式美ハードロックに始まり、グラハム・ボネットでポップ化し、ジョー・リン・ターナーでポップ路線が継続・発展といったところか。
3 リッチーがいつも不機嫌そうなのは、別にジョーのせいではないのだが。