困ったときのパンダ

出張の楽しみでもあり頭痛のタネでもあるのが食事だ。複数人いればいいけれど、一人で食事をしようと思うと、とくに欧米ではなかなかに苦労する。なぜ苦労するかといえば、おひとりさま向けにいいお店がないからである。

日本だと、たとえば寿司屋、天麩羅屋、蕎麦屋。おひとりさまでも堂々と入って、それなりの金額で、ある程度ゆっくりと食事を楽しむことができる選択肢がある。でも、たとえばアメリカにはそういう選択肢があまりない。ハンバーガーかピザのチェーン店1)でプラスチックのトレイを前にもぞもぞと食べる、あるいはテイクアウトしてホテルの部屋でもぞもぞするのがせいぜいであって、そうなると、我々の感覚では、食事というよりは単なるエネルギー補給といった趣になり、これが連続すると気持ちが荒み、世を儚んで仕事に行きたくなくなり、「咳をしても一人」などと尾崎放哉の句を諳んじ始めたりする。

ハンバーガーやピザがなぜ侘しいのかといえば、日本人にとってはあまり夕食の体をなしていないからだろう。夕食の期待値として、一汁三菜とまではいかなくてもせめて一汁二菜くらいはほしい。コメか麺は主食として確保したいし、そこに熱い汁物と湯気のたった(あるいはキュッと冷えた)おかずが一品か二品ほしい。この切なる欲求を、納得できる金額内で何とか叶えてくれるのは、アメリカではパンダなのであった。

パンダというのは、パンダの絵の入った丸いロゴでお馴染み「パンダ・エクスプレス」である。中堅以上の都市なら、デパートや商業施設のフードコートに必ずと言っていいほどある2)。仕組みは至ってシンプル。炒飯か焼そばを選んで、そこにおかずが2品または3品3)つく。おかずはカウンターで見て選べる。あとは、スチロール容器に盛り付けてもらうだけ。汁物が欲しい場合には、たいてい酸辣湯かコーンスープがある。まさに一汁二菜がここに確保されるわけだ。持ち帰ってもいいし、その場で食べてもよい。もちろんお手軽中華料理だから、味はそれなりだけれど、価格とのバランスを考えれば悪くない。

ニューヨークに限れば、最近では、大戸屋や一風堂、つるとんたんや牛角など、日本の人気店も進出していて人気だけれど、日本よりも高級路線をとるせいもあってドル建てのお値段は少々高めだ。さらにチップを払うので、トータルするとけっこうな金額になる。東京に戻れば、同じものが安く、いくらでも食べられるからなぁ、と思うと、さすがにちょっと躊躇する。

1 ニューヨークの場合には、徒歩で行ける小さなデリがほうぼうにあって、サラダやスープ、ご飯ものや麺なんかもテイクアウトできるのはありがたい。その他の都市ではなかなか難しい。
2 アメリカを中心に1,900店舗もあるらしい。日本にも2つあるようだ。
3 ひとつはパンダエクスプレス名物「オレンジチキン」を試してみることを勧める。けっこう美味しい。