どこか出張したり旅行したりするときに、泊まるところは多少のコダワリをもって選ぶ。豪快に、寝られればどこでもいいよ、と言えればよいのだが、泊まるところがしょぼいと途端に惨めな気分になり、それに引きずられて仕事も休みも台無しになりがちなので、ありていに言えば、もちろん予算が許す範囲ではあるけれど、できるだけ高級な宿に泊まりたい。グローバル展開している「高級」ブランドであっても、個別に見れば、値段ばかり高級で実体はそれに見合わないホテルもあるため、友人・同僚に聞いたり、ネットの評判を調べたり、様々な情報を総合して吟味しつつ、慎重によさそうなところを選ぶ。ちまちまと比較検討するのは、あまり男らしくない気がするが、こればかりは仕方がない。
国内の場合、いわゆる「ビジネスホテル」はほとんど選択肢に入らない。若い頃に何度か泊まってみたのだけれど、部屋の大きさ、清潔感、音などが、価格の安さをもってしても見合わないと思った。昔の職場の後輩に、アパホテルの熱烈なファンがいたが、理由を聞くと、アダルトビデオが無料でしかも豊富なんです!と力説していた。うーむ、そこに魅力がないとは言わないけれど、人がホテルに求めるものは、それぞれだ。
先日、急に長野方面に行くことになったものの、お盆の時期でシティホテルはどこも満杯。ホテル予約サイトの評価ポイントがある程度高くて、かつ、空きがあったのはドーミーインだけだった。どこかシティホテルに空きがでたら、キャンセルして乗り換えればいいか、くらいの気持ちで仕方なく予約を入れた。でも、やはり繁忙期なので、ほかに空きは出ないまま当日になり、そのままドーミーインにチェックイン。
実際に泊まってみて、いい意味で裏切られた。たしかに、ホテル予約サイトや旅行系のサイトなんかで、ちょくちょく良い評判や記事を見かけてはいたのだ。でも、どこかで「まあそうは言っても、どうせビジネスホテルでしょ」とナナメに見ていた自分がいたのも否めない。ところが、実際に経験してみると、なるほどねぇと納得させられることがいくつもあった。認識を改めなくてはならない。
全国のドーミーインがみなそうであるかどうかはわからないけれど、少なくともドーミーイン松本で印象に残ったのは、スタッフの皆さんが、快活で丁寧な対応をすること。部屋や寝具が清潔なうえ、新しい型の空気清浄機が備えられていること。カラの冷蔵庫1)が備え付けてあって、自分で持ち込んだり買ってきたものを冷やしておけること。温泉宿のように大浴場2)とサウナを備えていて、その掃除とメンテナンスが行き届いており、湯加減も丁度よいこと。無料で提供される「夜泣きラーメン」3)が優しい味で美味しいこと。朝食バイキングも地方の特色を活かした品揃えで、丁寧に作られていて美味しいこと。
華やかさや非日常のワクワク感、あるいは歴史や風格などはもちろん望むべくもないけれど、地に足の着いたとても堅実かつ丁寧なサービスで、バリュー・フォー・マネーはかなり高い。ドーミーインは、もともと学生寮や社員寮を運営する共立メンテナンスという会社がそのノウハウを生かして作ったビジネスホテル・チェーン。第一号ホテルは93年にオープンしたようだが、急速に数を増やしたのはここ10年余りのようだ。どんなに古く見える業界・セグメントにも、他とは異なるレベルのサービスを提供して新しい価値を創り出す企業が現れるものだと感心する。