タスマニアと言えばもちろんタスマニアデビル。この恐ろしげな名前の動物を見ずにタスマニアに行ってきましたとは言えぬ。写真を見ると、小型犬くらいの、真っ黒い、クマのような風貌の、やや恐ろしげな雰囲気の動物である。タスマニアの固有種とはいえ、タスマニアに行けば、どこでも見られる、というわけではない。タスマニアデビルは絶滅危惧種に指定されており野生の個体数は急速に減少している。夜行性で、死んだ動物の肉を食べる習性があるため1)、クルマに轢かれて死んだワラビーなどの動物を食べようと道路に出てきて、自分も轢かれてしまうという事故が多いらしい。また、20年ほど前から、デビル顔面腫瘍性疾患(Devil Facial Tumour Disease, DFTD)という伝染性の癌が急速に広がっていて、個体数の減少に拍車をかけている2)。
ボノロング野生動物保護施設は、動物園ではない。タスマニアデビルをはじめ、ウォンバット、ハリモグラなどタスマニア、オーストラリアの固有種(おおくは有袋類)を救助、保護、リハビリ、そして可能な限り野生に帰すプログラムを行う保護施設だ。自由に施設内を見学できるほか、職員による説明付きツアーなどもある。ここには十数匹のタスマニアデビルが保護されていて、タイミングによっては間近で見ることができる。
ちょうど餌やりのタイミングにぶつかったようで、職員の女性が餌を入れたバケツを持って区画に入ると、横穴からにゅっと黒い動物が現れた。餌につられて穴の外に出てくるけれど、肉片をくわえてすぐに穴の中に戻ろうとする。夜行性なので昼間はあまり外に出たくないのかもしれない。気まぐれにあちこち動き回ると、まもなく穴に戻っていった。デビルの年齢や、健康状態に応じて、いくつか区画わけがされていて、それぞれに何頭かのデビルがいるようだ。
デビル以上に見学者に人気だったのはウォンバット。コアラをずんぐりの樽型にしてふかふかの毛皮をかぶせて木の上から地上におろしたような、なんともかわいらしい姿3)。人間に撫でられたり抱っこされるのがどういうわけか大好きのようだ4)。フォレスターカンガルーは園内いたるところにいて、餌やりができる(というより餌をもっているとぬ~っと向こうから寄ってくる)。100歳を越えたオウムや、ヘビ、ハリモグラも見ることができるので、動物好きなら、半日くらいは時間をとってぜひ訪ねたい施設である。