ブルーニー島(Bruny Island)は、タスマニア島の南端近くにある小さな島。橋はかかっていないので、フェリーで渡る。ホバート市内からはA6、B68を辿って30分ほどのケタリング(Kettering)という小さな町まで行き、そこから島に渡るフェリーに乗る。おおよそ1時間に一本、所要時間は30分かからないくらい。フェリーに乗り込むクルマの列に並んでしばらく待っていると、積み込みがはじまり、スロープを上がって所定の位置に停め、そのままクルマの中で対岸に到着するのを待つ。クルマから降りてくつろぐスペースなどはない。実にシンプル。
対岸につくと、B66と名前の変わった州道をずんずん走っていく。タスマニア島自体、自然豊かなのんびりした島だが、ブルーニー島はそれに輪をかけて自然が豊富だ。道路沿いにも、人工物はほとんど現れず、手付かずの自然か牧場が延々と続く1)。
フェリーを降りて10分か15分、グレート湾(Great Bay)に沿って走り始めたら、ブルーニーアイランド・チーズカンパニーの看板が出て来るはずだ。ここでは手作りのチーズとビールを楽しむことができる。ここはNick Haddowという人が2001年に始めたチーズ工房で、牛乳を原料にフレッシュ、ソフト、ハード、ウォッシュ2)等、さまざまな種類のチーズを古くからのやり方を厳格に守りつつ作っているらしい。「発酵」を共通のテーマに、ビール醸造とパンづくりにも熱心だ。チーズ、ビール、パンともに、イートインもやっていて、新鮮なチーズを薪窯で焼いた出来たてのパンに乗せてビールで食べる、なんて素敵なこともできる。
チーズとパンでちょっとした腹ごしらえをしたら、更に先に進む。ブルーニー島は北島と南島からなっていて、そのふたつがThe Neckと呼ばれる細い糸のような地峡でつながっている。そこに遊歩道やキャンプ場があり眺めが良いらしいのだが、残念ながら工事中で閉鎖されていたので、泣く泣く通過。南島に入ると、高い木々3)がうっそうと茂る森が増え、道も舗装されていない区間が現れる。30分ばかり走って、原野の中、先行きが若干不安になってきた頃に、C629にぶつかるT字路に差しかかる。左に行くと、サウスブルーニー国立公園(South Bruney National Park)やクラウディ・ベイ・ビーチ(Cloudy Bay Beach)、右に行けばブルーニー島灯台(Bruny Island Lighthouse)に続くライトハウス・ロード。どうせなら島の突端まで行きたいよね、ということでライトハウスロードで灯台を目指す。
道はますます細くなり、くねくねと蛇行し、ぬかるみ、あるときは人の家の裏庭に入り込んだかというような場所を通過する。その裏庭然としたところにワラビー(小型のカンガルー)が5、6匹固まって、こっちを訝しげに見てたりする。自然豊かな、と言えばその通りなのだが、森のなかで視界が効かないのと、野生動物が飛び出してきそうな雰囲気が濃厚で、運転に集中せざるを得ず、周りをゆっくり見る余裕がない。
T字路から30分ほどで急に視界が大きく開け、灯台が見えてくる。小さな駐車場から見上げると、一本道が続く先に、童話か古い物語に出てきそうな風情の、白い灯台が建っている。駐車場の側には、灯台守、というのか管理者というのか、その人達のための小さな家が2棟、灯台の歴史を展示する棟がひとつ。周囲には野生の小さなうさぎがあちらこちらで跳ねる。ここまで来る人はあまり多くないのか、実にのんびりした風景だった。
↑1 | ブルーニー島の人々はタスマニア島を「main land」と呼ぶが、タスマニア島の人が「main land」と言うときにはオーストラリア本土を指すらしい。 |
↑2 | この旅行記5 (蒸留所めぐり – Sullivans Cove)で触れた本「Kudelka and First Dog’s Spiritual Journey」によると、タスマニアウィスキーの「父」Bill Larkをイメージしてウィスキーでウォッシュして作った「Jack’s Dad」というチーズもあるようだが、僕らが訪ねたときには置いていなかった。JackというのはBill Larkの息子の名前だそうだ。 |
↑3 | ユーカリの木が多い。山火事の跡らしき燃え殻もあちらこちらにある。 |