関西でスポーツといえばなんといっても野球。少なくとも僕が小学生の頃はそうだった。放課後はほとんど毎日野球をしていた。クラスごとにチームがあって、学校近くのグラウンドの取り合いも熾烈だった。日が落ちて暗くなるまで試合や練習は続き、試合が白熱しているときには、そのまま「簡易ナイター」になった。普通の公園に満足な照明設備などないから、キャッチャーの後ろに自転車を3台くらい並べて、攻撃側の空いているやつがスタンドに立てたままの自転車を漕いでライトを照らす。このためにみな、普通は前輪についている発電機を後輪に付け替えたりしていた。このシステムの問題は、灯りがあまりにささやかで、ピッチャー返し以外の打球はどこに飛んでいったか見えないことだ。結果、せいぜい打者ひとりかふたりでボールがどこかに行ってしまい、試合はお開きになったものだった。
僕は阪急沿線に住んでいたので、プロ野球シーズンはいつも、阪急デパートによる、阪急ブレーブス優勝感謝セールか、応援感謝セールで幕を閉じた1)。小学校6年の頃に買ってもらった美津濃2)のグローブは、確か小学校5年の秋の「感謝セール」で買ってもらったのではなかったかと思う。外野手用なのかちょっと縦長で、黄色っぽい色がなんとなくプロっぽくてとても気に入っていた。その後、長いこと、大学や会社のスポーツ大会などでも使い続け、ほぼ一生モノといってよい存在だったが、3年前の実家の火事で失ってしまった。
先日、野球をやりたいと言い出した甥っ子がグローブを買いに行くのにつきあって、御茶ノ水のミズノのお店に行った。野球用具のフロアには、硬式用、軟式用、少年野球用などのグラブが並んでいる。イチローモデルなど有名選手が使っている形をそのままコピーしたタイプもある。革がつやつやと光る新品がずらりと並んでるのは壮観で、子供の頃の、あのわくわく感が突然よみがえって、気がつくと、甥っ子そっちのけで、自分のグローブを熱心に選んでいる始末。あれこれ試した末に、失ってしまったものと似た形だが、色の黒い軟式用のグローブを買ってしまった。昔、買ったばかりのグローブは硬くて、皮革用のクリームをよく擦り込んで柔らかくしつつ、ボールをキャッチした状態のまま、紐でぐるぐる巻いて形をつくったものだったけれど、今は、買った後すぐにお店で餅つき機のような機械で柔らかくしてくれる。

話のマクラが長くなった。こうして数学から遠ざかって長い年月が経つけれど、実は数学が嫌いな訳ではない。むしろすごく興味があるし、わかるようになりたいと思っている。まぁ、今さら微積分の問題を解きたいということはないけれど、もっと大きな絵の中で、最先端の数学が取り組んでいる問いがどういう意味があるのか、それに関わる人物模様についてもっと知りたい。この興味のど真ん中を射抜き、刺激してさらに大きくしたのは、サイモン・シンの「フェルマーの最終定理」(青木薫訳、新潮文庫)

中央図書館には素敵な食堂とカフェがある。5階の「有栖川食堂」は昨年10月に、1階の「有栖川珈琲」は12月に、新しくオープンしたらしい。食堂のほうは、定食メニューが豊富で、何を食べても美味しい。1,000円前後なので、都の施設としてはやや高めかなという価格設定だが、じゅうぶんに金額以上のクオリティだと思う。食堂の窓の外には、皇室や各国大使がメンバーに名を連ね、100年を超える歴史をもつ東京ローンテニスクラブのコートが間近に見え、遠景には六本木ヒルズが秋の日差しに銀色に光っている。1階入口横にあるカフェはドイツ式のちょっと濃い目の珈琲を提供していて、こちらも大変よい。
最初はお店で豆を挽いてもらっていたけれど、どんな参考書にも「淹れる直前に挽くのが最も美味しい」と書いてある。そこで手回し式のミルでゴリゴリと挽きはじめたのだが、相当な手間と時間がかかり、気分をリラックスさせるはずのコーヒータイムが苦行になってしまいそうだったので、カリタの「ナイスカットミルG」という文明の利器を導入した。これが大正解で、電動であっという間に挽ける上、精度が高くて粒子が揃っており、手挽きに比べるといわゆる「雑味」が飛躍的に軽減された。挽く細かさもダイヤルをひねるだけで自在に変えられるので、豆のロースト具合に応じて、あるいは、ホットとアイスに応じて最適な状態を選べる。今では、台所でガスコンロと並んで「利用頻度の高い」機器第一位に君臨している。
ところで、先日、とらやで栗蒸し羊羹を買った。9月、10月の二ヶ月だけ販売される、誰もが納得の「高級品」であって、母ならばきっとよっぽど特別な時に、向こうが透けて見えるほど薄く切って、もったいぶって出してきたに違いない。どこかアタマの後ろの方で「栗入りよ~」の声を聞きつつ、わざと厚めに切る。食べてみると、まぁ、これが。たっぷりと入った新栗はほくほくと甘く、蒸された餡は、煉羊羹よりもやわらかく甘さも少し控えてあって
