Every Breath You Take (The Police)

「Every Breath You Take」(邦題「見つめていたい」)は、1983年の世界的大ヒット曲。このヒットでザ・ポリス(The Police)という稀代のスリーピース・バンド1)は老若男女から広く認知を獲得したが、結果として、バンドの末期を飾る曲となった。

ザ・ポリスの結成は77年。79年に発表した2枚めのアルバム「白いレガッタ」(原題「Reggatta de Blanc」)がイギリスでヒット。このアルバムからのシングルカット「孤独のメッセージ」 (原題「Message in a bottle」)が初の世界的ヒットとなった。以来、ジャズ的なセンスを漂わせつつも、一方でストレートなビートとときにパンクにも近いロック・テイストを組み合わせ、アルバムごとにイギリスのバンドらしい実験的な試みを取り入れて「通好み」の人気バンドとなる。83年発表の「シンクロニシティ」はイギリスのみならず世界的な大ヒットアルバムとなったが、メンバー間の不仲により84年にバンドは活動を停止する。つまり、「Every Breath You Take」が収録されたのはバンドの最後のオリジナル・アルバムだったということになる。

メロディの美しさと歌詞から、ラブソングだと一般に思われているこの曲は、Stingによれば、「嫉妬と監視と所有欲についての不快な、あるいは邪悪とも言える」小曲なのだという2)。若い頃、僕はカラオケでこの曲をよく歌ったけれど、歌いながら「なんかストーカーの歌みたいだ」とぼんやり思っていたのは、あながち間違いではなかったわけである。なんせ「息をするごとに、身動きするごとに、約束を破るごとに、一歩踏み出すごとに、君を見つめているよ」だもの。普通に考えて、相当に気持ち悪い。まぁ、ラブソングの少なからずは一歩間違えれば同じようなストーカーソングになってしまう要素があるとはいえ、やや狂気すら感じる極端さである。スティングがこの曲をつくったのは、最初の結婚生活が破綻の縁にあって精神的に壊れそうだった時期だというのもむべなるかな、だ。

音数が少なめで、楽器同士の間を十分にとったスリーピースらしいアレンジの中で、アンディ・サマーズのアルペジオ的なバッキングが、実に美しい。これ、単純に聞こえるけれど、弾いてみると指が攣りそうになるほどストレッチして押弦せねばならず、さすがに一筋縄ではいかない。(ビデオで人差し指と小指の伸びをぜひ観察してください。)でも、あまりに完成度が高いので、少しでも変えるともう別の曲になってしまうので、バンドでやりたければ意地でも完コピする必要があってツライ。

バンドは2007年に再結成(というか活動再開)。2008年の東京ドームのコンサートに行ったけれど、サポートなしの完全スリーピースによる演奏は年季による円熟と往年のキレを兼ね備えた素晴らしいものだった。スティングのボーカルは年齢とともにパワーと艶を増していて、人間の声がもつメッセージの「伝達力」をまざまざと見せつけられた思いがしたものだ。

1 当初は4人編成だったようだが、78年末ごろから、ベース兼ボーカルのスティング、ドラムのスチュワート・コープランド、ギターのアンディ・サマーズの3人編成となり、今に至る。
2 Every Breath You Take — Sting’s ‘nasty little song’ was The Police’s biggest hit” (Financial Times)