豆腐の味噌汁に、納豆、醤油とくれば日本の朝ごはん。よく見れば大豆ばかり。世界一大豆を食べているのは日本人だろうなぁとしみじみ食卓を見渡すが、これは正しくもあり、誤りでもある。たしかに、ひとりあたりの食用供給量(消費量)は日本が世界一なのだが、総供給量でみると世界一は、人口の差が歴然というべきか、中国である1)。
というわけで、中華圏でも大豆を使った食品や料理は多く、それは台湾も例外ではない。豆漿(ドゥジャン)というのは、台湾ではポピュラーな朝食で、街のあちらこちらに豆漿を出すお店がある。これはつまり豆乳。あるいは豆乳が粥状に固まり始めたくらいの、おぼろ豆腐よりもちょっとゆるいくらいの感じのもの。
阜杭豆漿(フーハンドゥジャン)は、この豆漿の名物店。華山市場という商店ビルの二階、フードコートの一角にある。2018年、19年と二年連続で台湾版ミシュランガイドの「ビブグルマン」2)に選ばれている。朝5時半から昼くらいまで開いているが、朝食時には1時間以上ならぶこともザラという超人気店である。朝飯に1時間並ぶってあり得る?とか、そんなに並んでたらそれは昼飯になってしまうやん?とかいろいろと疑問は浮かぶが、何はともあれ行ってみた。
10時前という朝食にはやや遅い時間だったものの、ビルの壁に沿ってすでにズラリと人が並んでいる。観光客ばかりかと思いきや、地元の人たちも多数。テイクアウトで買っていく人も多く、回転が早いせいだろう、列は絶え間なく進み、30分かからないくらいで注文レジまでたどり着いた。レジのおばさんたちは中国語の通じない観光客も扱いなれていて、メニューの指差しと片言の日本語、英語など駆使しつつ、良く言えばてきぱきと、悪く言えば問答無用な感じで客をさばいていく。
鹹豆漿(鹹は塩味の意味)と厚餅夾蛋(中国パンのタマゴサンド)を注文。鹹豆漿は、味の形容が実に難しいが、ほんのりとやさしい塩味に小エビの出汁が効いて豆の旨味を引き出し、小さくちぎって入っている油絛(中国風揚げパン)の油気とコクが一体となってするすると喉を通過していく。厚餅夾蛋はいわば台湾風タマゴサンド。インドのナンのように窯の壁に貼り付けて焼いたパン生地には塩気とネギ風味がついていて、そこに挟まったふるふるとした卵焼きがいいバランス。適度にお腹がいっぱいになりつつ、もたれるという感じはなく、なるほど朝食にちょうどよい加減だった。