庭と魚と加賀野菜:金沢旅行記(1. 兼六園)

先日、旅行で金沢を訪れた。3年ぶり2度めである。防寒対策にヒートテックやダウンジャケットを着込んで勇んで出かけたものの、あまり寒くはなく、雪も道端に多少残る程度でそれほど降った形跡もない。タクシーの運転手は、観光客はみな雪山にでも行くような格好で来るけれど、金沢はそれほど雪も降らないし寒くもないよ、と笑った1)。そういえば3年前も厚着しすぎたな、と思ったのを今思い出した。

金沢は、言わずとしれた加賀百万石の中心地。加賀藩前田家は外様でありながらも、徳川御三家に次ぐ別格の地位を与えられた。その格式と富を受け継いできた土地だけに、名所旧跡は豊富だし、市街にもどことなく品があり、豊かな文化の香りがする。

金沢の中心地はJR金沢駅ではない2)。一番の繁華街である香林坊は駅東口から1.5キロほど南東にある。香林坊は金沢城址や兼六園、旧制第四高等学校(現在の金沢大学)跡などの史跡と隣接しており、このあたりが江戸時代以来の中心地であったことがわかる。金沢駅も東口側には美しい形の「鼓門」があり、賑わいを見せているが、西口側は駅前ロータリーに車も少なく、真っ直ぐ伸びる広い道路の両側に銀行、オフィスビル、NHKなどがぽつりぽつりとあるばかりで閑散としている。

金沢観光といえばまずは兼六園。昔は観光地に行って「庭」を見たがる親の気持ちが理解できなかったが、今ではすっかり年寄りチームの仲間入りを果たしてしまった。加賀藩主前田家の庭として何代にも渡って整えられてきた庭は、水戸の偕楽園、岡山の後楽園とならぶ日本三名園の一つに数えられている。とくに冬の「雪吊り」が施された景色は、誰もが一度や二度は写真で見たことがあるのではないか。兼六園は四季それぞれにライトアップされる期間が設けられているが、この冬のライトアップは2019年2月1日から19日まで、夜5時半から9時まで実施されている。今回の目当ての一つがこのライトアップされた庭の見物であった。前の週に降った雪が少し残っていて、雪吊りの荒縄が照明に金色に光って実に幻想的。おそらく吊った縄と形のバランスも意識した職人技3)で、凛とした美しさを湛えている。この雪吊りと雪の積もった兼六園のイメージが強いので、金沢は雪国だというイメージがあるのだと思う。昼間の庭もよいが、夜ライトアップされた庭はまた格別の趣がある。

金沢旅行記2 に続く)

1 気象庁のデータでみると、温暖化の影響なのか、90年代以降はそれまでと比べて年間降雪量が半分くらい、降雪日数が6割程度になっている。
2 JRの駅が繁華街の中心なのは、東京などの大都市圏だけであって、多くの県庁所在地や地方都市ではそういうわけでもない。
3 石川県のウェブサイトによると、総重量4トンもの藁縄をつかい、兼六園の庭師5名を中心に、延べ500人で作業を行うらしい。