シングルタスク(または憑依)

幼い頃に同じような経験がある分、僕にとっては男の子のほうが女の子に比べると理解しやすい。とはいえ、歳をとってある程度客観的に(かつ無責任に)子供を眺めていると、いろいろと新たな発見がある。男の子は、基本的にシングルタスクである。眼の前の面白そうなものに、興味と注意を100%支配される。それも一瞬で。ナニモノかに簡単に憑依されるのである。

ある年の12月、甥っ子へのクリスマスプレゼントを買いにデパートのおもちゃ売り場をぶらぶらと眺めて歩いていたところ、ある一角にウルトラ怪獣のソフビ人形がずらりと並んでいた。今の子供は意外なほど昔のウルトラマンシリーズに詳しく、僕らが子供の頃見ていたものと同じものを数十年の時間差を飛び越えて再放送で見ていたりする。そこには、エレキングやらゼットンやら、おなじみの怪獣が何十種類も所狭しと並んでいた。懐かしくなってしゃがみこんでじっくりと見ていたところ、突然背中にドン!という衝撃を受けた。なんだなんだと驚いて振り向いてみると、3つか4つくらいの男の子がちょっと前傾しつつ両手をクロスしたポーズでこっちを睨んでいる。彼は明らかにウルトラマンになり切っており、目の前にしゃがんでいるおっさんを敵の怪獣だと認識して、そこに渾身のチョップを放ったのであった。振り向いたおっさん怪獣に怯む様子もなく、彼はスペシウム光線を発射しようとした1)。きっと、ずらりと並んだ怪獣を見た瞬間、彼のアタマの中にウルトラマンがやってきて憑依し、彼は怪獣から世界を救うヒーローになって頑張ったわけだ。

あるいは、高速道路のサービスエリア。トイレでよく見かけるのは、男の子が小便器のはるか前、場合によってはトイレ入口より更に前から、ズボンを半ば下げ、おちんちん丸出しでちょこちょこと走ってくる姿。もう「おしっこ」というタスクにアタマがいっぱいで、周囲の目など気にするどころではない。アタマの中はズボンをずり下げておしっこをしている数秒から数十秒先の自分のイメージでいっぱいである。まぁ多くの場合、我慢の限界という緊急事態でもあるだろうけれど、この「我慢の限界」も、シングルタスクの一例であって、おしっこ以外のおもしろいものに興味を100%奪われているため、本当に差し迫らないと「おしっこタスク」が彼らの中に割り込んでこないわけだ2)

男ばかりの兄弟で育ったので、この手の現象に、ずっと何の疑問ももたず、誰もがみなそうなのだと思い込んでいた。でも、甥っ子と姪っ子の成長を身近で眺めていると、女の子にはこういったことはあまり見られない。男の子が、怪我ばっかりする理由がよーくわかった。周りなんてまったく見えてないもの。

1 が、残念なことにその瞬間、飛んできたお母さん怪獣に連れ去られてしまった。
2 だから男の子は常にぎりぎりになっておしっこと言い出す。