バイキング

レストランの食べ放題スタイルを、日本語では「バイキング」というが、これは日本だけの言い方である。うっかりすると英語でもそのまま通じそうな気になるが、「v」の発音に気をつけて「ヴァイキング」などと言ってみても、それはあくまでも、1000年くらい前に北欧で暴れていた海賊であって、食べ放題スタイルのことではない。食べ放題スタイルのことは、英語では「buffet」(バフェ)という1)

この罪深き「バイキング」というネーミングのおおもとは、帝国ホテルである。ホテルのウェブサイトによると、魚介類や肉料理、酢漬けなど、好みのものを自由に食べるスカンジナビアの伝統料理 「スモーガスボード」2)にヒントを得て、日本初のブフェレストラン「インペリアルバイキング」を1958年に開業したとある。「バイキング」の由来は、開業当時話題だった映画「バイキング」からとったようだ。

半世紀を経て今では、バイキング形式のレストランは珍しくないし、和洋中とりそろえた大規模なバイキングも沢山ある。でも、帝国ホテル最上階の「インペリアルバイキング・サール」で提供されている「元祖」たるバイキングはぜひ行ってみるとよい。和食、中華などはなく、洋食カテゴリーの料理に絞られている(といっても40種ほどもある)が、どの皿、料理をとってみても、さすが帝国ホテルと膝を打つクオリティである。美味しそうな品々が並ぶカウンター前をうろうろすると、欲張ってつい盛大に盛り付けたくなるが、自分の胃袋の容量と慎重に相談しつつ、少しずつ数多くの種類を楽しむとよいと思う。特に中高年の男性諸氏は、「食べ放題」に来ると、突然アタマの回路が高校時代くらいに巻き戻され、無尽蔵に食べられそうな勘違いをするが、我々の胃袋はもはやそのようなパワーを失って久しいので注意すべし。個人的レコメンデーションとしては、青魚の酢漬けやマリネ、ローストポークとローストビーフ、帝国ホテル名物のカレーあたりは押さえておきたい。デザートも充実しているのでお忘れなく。アップルパイとバニラアイス(それに珈琲)の組み合わせは外せない。

1 厳密に言えば、「食べ放題」ではなく「立食形式」や「セルフ形式」のことらしいが、実用上まぁ同じものだと考えて差し支えないと思う。
2 「smorgasbord」を「食べ放題」の英訳語としている説明もあるが、僕は未だかつて英会話の中でこの単語が使われるのを聞いたことはない。