四万温泉・積善館(2)

本館での食事は2階奥にある食堂でとる。夕食は6時から7時の間。お重にはいったおかずが部屋ごとのテーブルにセットされていて、温かいごはんとお味噌汁が別に用意されている。お重は3重になっていて品数は多く、優しい味付けで悪くない。頼めば部屋に持ち帰って食べることもできるようだ。飲み物は、外で買ってきたものであっても、自由に持ち込むことができる。商店街にある酒屋で地酒を買って一献なんてのも楽しい。(食堂にも、それほど種類はないけれど、ビールやお酒が有料で用意されている。)

なにせ古い木造建築なので、廊下を人が歩くとぎいぎいときしむし、足音が響いたりする。また、本館の部屋は、トイレ、洗面所が共同で、いちいち部屋の外に出なければならないのが面倒といえば面倒だけれど、それも風情だと思って楽しむとよい。

積善館は、古い歴史や由緒ある建築が温泉ガイドにとりあげられるけれど、それに劣らず、接客も丁寧だ。本館での宿泊は「湯治」スタイルなので、客が自分のペースで時間を過ごせるように、日本旅館では普通とされるサービスのいくつかをあえて「しない」選択をしている。たとえば、部屋ごとに何くれと世話をしてくれる接客係はいないし、布団を敷くのも客が自分でやることになっている1)。それでも、スタッフのみなさんは、チェックイン・アウト、食堂での給仕といった要所要所で、気配りの効いた、落ち着いた品のある接客をしていて、客が心地よく過ごせるよう気を使っているのを随所に感じることができる。また、宿のウェブサイトはとても充実していて、宿の自負と誇りを随所に感じる読みものが満載だ。

四万温泉の周辺には、徒歩やクルマで訪れることのできる観光ポイントがいくかある。紅葉のシーズンであれば、日向見薬師堂や四万川ダムに立ち寄ってみることをお勧めする。

1 普段、ホテルに泊まりなれている身からすると、日本旅館のサービスは時に過剰で、かえってわずらわしいことが多い。布団だって、部屋のどこにいつ敷くのか自分で決めたいので、放っておいてくれる仕組みのほうがありがたい。フルサービスが好みの場合には、山荘か佳松亭に泊まるとよい。