ストレッチリムジン

クリスマスや年末年始になると、六本木とか渋谷近辺で1)ストレッチリムジンを見かける。ハリウッド俳優なんかが中から出てきそうな、あのうなぎみたいに妙に胴体の長い高級車である。

日本だと成金か品のない芸能人くらいしか使わないような気がするが、道の広さや交通事情の違いもあってか、アメリカではもっと頻繁に見かける。マンハッタンの高級ホテルの前にはたいてい駐めてあるし、けっこう田舎の方でも走ってたりする。向こうでは高校や大学のパーティといった機会に友達同士で借りたり、男の子がここぞというデートで女の子をリムジンで迎えに行ったりなんてことが、わりと普通にあるようなので、相当に特別感のあるクルマではあるものの、もう少し身近な存在なのかもしれない。

去年、オハイオの田舎町から、6人で空港に向かうのにこのリムジンに乗った。たまたま送迎を頼んだ会社で空いているクルマがこれだけだったらしい。これが通りの向こうから、グーンと大回りして曲がってきたときには、さすがにちょっとビックリしてテンションが上がった。出てきてドアを開けてくれたのは、蝶ネクタイに白手袋の運転手さんではなく、そのへんのホームセンターにいそうな、ポロシャツ・チノパンにたっぷりとお腹の出た気のいいおとっつぁんだったが、それはまぁ良しとしよう。車内もわかりやすくキラキラと豪華で、キャビネットには、グラスとブランデーらしきボトルまで鎮座していた。

この手のクルマは、「ストレッチ」(伸ばす)というくらいで、大柄なアメリカ車を前後の真ん中で切って2)、そこに胴体の延長部分を挟んでくっつける、というけっこう大胆な方法で作られている。ドライブシャフトやら油圧やら電装系やら、みんなぐーんと延長して前後を繋いでいるらしい。乗り心地は、妙にゆさゆさとしていて、気のせいか小さな段差でもみしっと軋むので、最初はちょっと心配になるが、ハイウェイに入ればもう快適そのものである。

もうずいぶんと昔の話だけれど、ニューヨークでお世話になっていた支社長の任期が終わり、東京に戻ることになった。郊外の家を引き払い、帰国前の数日はマンハッタンのホテルにご家族みんなで移られていた。帰国の日に、最後くらいは記念にと、ホテルからケネディ空港までこの長~いリムジンを手配されていた。見送りにホテルに行くと、もう入口脇に白くて豪勢なリムジンが横付けされている。

でも、ホテルのベルボーイがゴージャスなシートに積みこんでいるのは、ダンボール箱の山。聞けば、引っ越し便に乗せきれなかった小物類とか、最後の数日に購入したお土産類が大荷物になってしまったとのこと。結局、箱を積み終えてみると、豪華リムジンはダンボールに占拠されて乗れなくなり、支社長ご一家は、リムジンの後を追ってイエローキャブで空港に向けて走り去ったのであった。

1 単に自分の会社がそのあたりだというだけで、もっとたくさん走ってる地域が他にあるかもしれない。
2 切断すれば当然強度は下がるので、もともと頑丈にできている大型のアメ車や高級車でつくる。最近だとハマーで作っているのをよく見る。日本車だとトヨタのセンチュリーあたりだろうか。