Who’s Crying Now (Journey)

ニール・ショーンは、僕がエレキギターおよびハードロックにどっぷりとハマるきっかけとなったギタリストのひとりだ。初めて聴いたのは高校生の頃、81年の世界的ヒットアルバム「エスケイプ」。「オープン・アームズ」1)や「ドント・ストップ・ビリーヴィン」2)など今も演奏される名曲満載のアルバムだが、この中に収録されている「時の流れに」(Still They Ride)のギターソロを聴いて、おお!なんだこりゃ!と引き込まれた。

世界的な人気を獲得した「エスケイプ」とそれに続く「フロンティアーズ」の成功は、しかしながら、皮肉なことに多くの「アンチ」も生み出すことになり、売れ線すぎるだの産業ロックだのとその後長々と批判されることになった3)。そんな中でも、ニール・ショーンのギタープレイは、今に至るまで全くブレることなく、美しいオーバードライブサウンド、楽曲の鍵となる印象的なスローフレーズと時折繰り出される超高速の速弾きの組み合わせ、ドライブ感あふれるバッキング・リフとボーカルの合間に挿入される格好いいオブリガートを聴かせてくれる。

「クライング・ナウ」(Who’s Crying Now) は、雰囲気のあるピアノのイントロで始まるミディアム/スローテンポの曲。ギターソロは曲の終わりにアウトロとして出てくる。ソロの最初の繰り返しフレーズがとても印象的で、曲名は知らなくても聴けばわかる人も多いのではないだろうか。スタジオ録音ではかなり抑えたプレイが収録されているが、ライブでは自由奔放に指の走るままに弾きまくっていて格好いい。

ジャーニー、とくに「エスケイプ」以降のアルバムでのプレイは、バンドサウンドでのギターの役割を相当意識していて、「俺のギターを聴け」的に突出しないように注意を払っている印象がある。けれど、15歳でサンタナに見出されてプロデビューした才能はダテではなく、音楽的な引き出しの広さと深さは驚異的で、ラテンっぽいノリから、ブルージーなもの、ハードロックの王道的なもの、さらにはジャズ・フュージョン的なアプローチまで何でもできる上、全て「ニール・ショーン節」に溢れているのがスゴイ4)

当日配布していたカイロ。ベタすぎるダジャレに脱力。

2017年2月7日に武道館で行われた特別公演(『エスケイプ』『フロンティアーズ』の全曲演奏)に行ったが、予想以上に素晴らしい演奏5)でビックリした。ニール・ショーンのいわゆる「手くせ」のような速弾きフレーズもほぼ完璧に再現していて、あー適当に弾いたわけじゃないのね、と今更ながら感心。現ボーカルのアーネル・ピネダは、スティーヴ・ペリーを忠実になぞって原曲の雰囲気を損なわないようにしつつも、若さ6)ならではのパワーが加わり、文句のつけようのない出来だったと思う。

1 マライア・キャリーもカバーした。
2 映画化もされたブロードウェイ・ミュージカル「ロック・オブ・エイジズ」はこの曲が主題になっている。
3 「産業ロック」という言葉は渋谷陽一が使った悪口だが、アメリカでもロックバンドとしてはなかなか正当に評価されなかった。しかし、ついに昨年(2017年)ロックの殿堂入りを果たした。
4 ジャーニー以外では、サミー・ヘイガーとのプロジェクトで、HSAS名義で作ったアルバム(『炎の饗宴』原題:Through the Fire)、ヤン・ハマーとのソロアルバムなどがオススメ。またヘヴィメタル版「ウィ・アー・ザ・ワールド」とも言える「Hear’n Aid」でのギタープレイも貫禄に溢れている。
5 ドラムにスティーブ・スミスが復帰して、Voのアーネル・ピネダ以外はアルバム発売時のオリジナルメンバー。
6 まぁ、若いって言ってもアーネルももう50歳。ジャーニーに加入して早くも10年が経つ。