冷たい麺

暑くなると冷たい麺が食べたくなる。というか、それ以外食べたくないというくらいの気分になる。暑くてだるくて食欲がわかないときでも、冷たい麺であれば、食べられる。つるつる、という擬音がアタマにうかび、食欲がわかないなどと言っていたのもどこへやら、今すぐにでも麺が食べたいっ、くらいの気持ちになるのだから現金なものだ。冷たい麺といっても、いろいろある。もり蕎麦、ひやむぎやそうめん、冷やし中華につけめんに冷麺。最近は、桜がおわると即、盛夏くらいに気温が上がるせいか、ラーメン店もいろいろと冷たい麺を工夫して早めに投入してくるようになった。

そばつゆに山葵、そうめんつゆにおろし生姜と刻みネギ、なんてのもいいけれど、それはどこか夏休みの匂いがする。6月だとまだ少しだけ早い感じ。もう少しボリュームがあって、今の時期に食べたい麺といえば、

高田馬場、「えぞ菊」の冷やし中華。札幌味噌ラーメンの老舗で、明治通りと早稲田通りの交差点から早稲田大学方向に100メートルほど。冷やしは、ゆでもやし、レタス、トマト、きゅうり、つめたい半熟卵に細切りチャーシューとボリュームたっぷり。醤油スープででてくるけれど、ゴマペーストを別に出してくれるので、それを途中で入れると両方の味が楽しめる。僕は最初からたっぷりゴマペーストを入れて食べる。

同じく高田馬場、「ティーヌン」の冷やしトムヤムヌードル。「えぞ菊」とは早稲田通りを挟んで斜向い。トムヤムクンに麺をいれたトムヤムヌードル発祥のお店だけれど、夏になると冷やしも食べられる。麺はセンレック(米粉の麺)かバミー(中華麺)を選べる。酸っぱ辛いスープはバテ気味のカラダと心がしゃきっとする。ランチタイムには出しておらず、14時以降なのでご注意。

ウェスティン東京(恵比寿)「龍天門」の冷やし担々麺。もともと隠しメニューだったようだが、人気のせいか最近では「表」メニューに載るようになった。温かいものもおいしいけれど、何と言っても冷やしが素晴らしい。行儀が悪いとわかっていても、スープを残らず飲んでしまう。いつも混んでいるので、ランチでも予約したほうが確実。

死言状(山田風太郎)

「死言状」山田風太郎著(筑摩文庫)に面白い一節があった。「死言状」は94年の発行。すくなくとも25年以上前に書かれたエッセイの一節である。

八十、九十の翁や嫗は、みな脱俗の仙人か福徳円満の好々爺になるかというと、聖マリアンナ医大教授、日本老年社会学会理事の長谷川和夫博士の言葉の大意を紹介すると、
「私、最初老人というのは、温厚でいつもニコニコと柔軟性があって、あまりストレスもない、というような理想的な人ではないかと想像していたら、決してそうじゃない。そこで感じたことはみな我が強いということ。ただ性格が強いから長生きしたのか、長生きしたから性格が強くなったのか、そこはむつかしいところですが」(『 病気とからだの読本』)
読んで私は破顔するとともに、さもあらんと思った。最後の疑問はおそらく前者だ。
心やさしい人々は早く死んでゆく。それをおしのけ、踏みつける我の強い人が、そのバイタリティのゆえに長生きしてゆくのだ。

2016年のデータによると、日本人の男性の平均寿命は80.98歳。女性にいたっては87.14歳。平均でこんなに長く生きるのだから、性格にかかわらず、今では誰も彼もみな80歳、90歳になるとなれば、山田風太郎の見立てとは逆に、「長生きしたから性格が強くなった」という方を採りたくなる。昼日中の街中でよく見かける老人(とくに爺さん)を見ていると、実態としては、長生きしたために柔軟性を失って、ストレスに弱くなり、わがままになる、というのが正解ではなかろうか。もともと我の強い連中は、これに輪をかけて、我欲に執着して醜態を晒す。日大アメフト事件や企業のトップ人事のゴタゴタなど、そのサンプルには事欠かない。

もちろん自分もそうならないとは限らない(まぁ権力はないから、そこは心配いらないけれど)。将来の戒めとしてここに一筆。