人間臨終図鑑

人間臨終図鑑(1巻~4巻)山田風太郎 著(徳間文庫)

「魔界転生」や「忍法帖」シリーズで人気の山田風太郎が、歴史に名を残す古今東西の著名人(英雄、武将、政治家、軍人、作家、芸術家、芸能人、犯罪者など)がどのように世を去ったか、その死に際の様子を全923名に渡って切り取った本。本書に限らず、著者のエッセイはちょっととぼけた味わいで楽しめるものが多い。

最初に読んだのは、母親ががんで亡くなった時だ。去年17回忌だったからもうずいぶん前のことになる。61歳という、女性の平均寿命からすれば早すぎる死だった。病気がわかってから亡くなるまでわずか半年だったこともあり、自分の中でどうにも気持ちの整理ができずにいたときに、本屋で偶然発見して読み始めたのだと思う。これを読んだからといって、その当時、何か慰めや納得が得られたかと言えば、そうでもなかった気がするけれどもう忘れてしまった。ひと月ほど前に、Kindleストアを眺めているときに、たまたま見つけたので久しぶりに再読してみた。

死に際の様は人それぞれとはいえ、900人ものケースを横断してみると、時代の影響ももちろん垣間見える。外的な要因としては、1600年代のペストや、1800年代のコレラ、二度の世界大戦は、少なからずの人に、直接あるいは間接に死をもたらすことになった。内的な要因では、今と変わらず、脳卒中とがんが引き金となる例が目立つ。

当人が、自らの死について伝え残すことはできない以上、僕らに残されているのは、他人の目にどう映ったかの記録であり、どうしても客席から眺めている感じは拭えない。死は一大事であるけれど、それが起きた瞬間に本人にとっての意味は消失し、残されたものにとっての物語に生まれ変わる。だからこそ本書のように「エンターテイメント」にもなりうるわけだ。

自分の死に際がどういうものになるのか想像もつかないけれど、もしこのような本に書かれるとすればどんな風に書かれたいかな、などと考えるのはちょっと楽しい。

ホライズン・ラボ

ホライズン・ラボについて知ったのは、ジモコロというサイトのこの記事1)がきっかけだった。岩野響さんという15歳の焙煎士が立ち上げた珈琲ロースターで群馬県の桐生にある。北関東に行く機会があれば足を伸ばしてみようかな、なんて思っていたら、近頃のコーヒーブームも手伝ってかすごい人気だそうで、とても自分でコーヒーを淹れて提供する余裕がなく、喫茶店自体は閉め、ローストに専念しているそうな。そこで通信販売されている豆を購入してみた。

毎月、その月のイメージに合わせて豆を選びローストするのが彼のスタイル。4月のテーマは「新しい旅」2)

いつかの春の日に感じた香り、温度、味、情景などの記憶を連れて新しい旅に出る。そんなはじまりのそばに在るコーヒーをイメージし、焙煎しました。甘み、香り、酸味、苦みがバランスよく共存する味わいを作りました。

シティロースト(深煎り)のホンジュラス豆。淹れてみると、何よりまずコーヒー豆が新鮮。香りが良く何層かの味わいがバランス良く組み合わあされていて、深みと同時に抜けの良いコーヒーだった。このテーマを先に読んでから買っている(飲んでいる)ので、そういうものとしてこちらが理解しようとするのは避けられないけれど、それでも彼がテーマとして意図したことを、味わいから追体験できるのが面白い。

最近だと「メシ通」というサイトで、彼の焙煎の仕方を紹介している記事が掲載されている。

僕の場合、豆の状態や焙煎機の調子を見ながら調整を加えているので、時間や温度計というのはあまり当てにしていないんです。数値に頼るのでなく、香りや色や蒸気の出かたといった、その時々に豆から直接感じるものに重きを置いて焙煎をしている感じです。このことを他の焙煎士の方に言うと、「適当にやってるいるの?」と言われることもあるんですけれど、そういわけでもなくて。やり方が違うだけだと思います。

「やり方が違うだけだと思います」というのがとてもよい。5月のテーマは「痕跡」。豆が届くのが楽しみだ。

1 友光だんごさんというライター・編集者が書く記事は、大げさなところがなく誠実でよいものが多い。
2 このページの下の方に手書きの説明がある。