マンダリン・オリエンタル・シンガポール

数年前のインド出張のとき、チームのインド人がビリヤニ(Biryani)の美味しいお店に連れて行ってくれた。ビリヤニというのは、インド(あるいはパキスタン)の炊き込みご飯のようなもので、本格的なものは調理に相当な手間がかかるらしい。一見すると長粒米のカレー風ヤキメシまたは炒飯のようにも見えるので、お手軽料理とつい侮りがちであるが、両者は似て非なる、というか全くの別物。一度本格的な美味しいビリヤニを食べてごらんなさい。コメの炊け具合、肉の火の通り、スパイスの深みと複雑さに陶然となる。

マンダリン・オリエンタルのハナシをしようというのに、いきなりビリヤニについて熱く語っているのにはわけがある。このホテルのMelt Cafeというカフェで食べられるビリヤニが美味いのだ。「Signature Chef Santosh Murgh Biryani」といってホテルのインド料理を統括しているマスターシェフ直々のビリヤニだそうだ。去年泊まったとき、二晩連続で食べに行ったら、そのマスターシェフ御本人がわざわざテーブルまで来て挨拶をしてくれた。給仕をしてくれた若いインド人のウェイターもとても喜んで、隣にあるブッフェコーナーからタンドリーチキンやらマトンカレーやらをサービスだと言って持ってきてくれたので、テーブルの上は、私ひとりだというのに、ビリヤニを真ん中にしてインド料理のフルコース状態1)になり、食べきるのに一苦労だった。

これは朝の風景

マンダリン・オリエンタルはラッフルズアベニューを挟んでマリーナ湾に面している2)ので、そちら側の部屋を指定するとよい。窓からマリーナ湾、観覧車、マリナーベイサンズの三連の建物が見える。特にネオンにライトアップされる夜景を部屋から眺められるのはとても良い。ホテルは中央が大きく吹き抜けになった三角形のつくりで、ロビーから見上げると、レストラン、バー、各客室へと上に向けて視界が広がる立体的な動線になっている。部屋は高級感のある落ち着いた色調で、ベッドの硬さもちょうどよく安眠できる。ホテルのスタッフは、皆フレンドリーでいながら礼儀正しい。何度も泊まっているが、滞在中にイヤな思いをしたことは一度もない。

1 シンガポールにはインド人も多く、大きなコミュニティもあるので、インド料理はハイレベルだ。
2 隣にマリーナ・マンダリン・シンガポールという別のホテルがあってややこしい。タクシーの運転手には「マンダリン・オリエンタルだぞ」と念押ししておいたほうがよい。