温泉旅館格付ガイド(25点満点評価つき)
松田忠徳 著 新潮社
著者は「温泉教授」として、温泉に関する本を多数執筆している。どの著書でも、なぜ温泉が健康に良いのか、良い温泉とはどういうものなのか、源泉掛け流しが価値を持つのは何故なのか、といったポイントについて熱く語っている。
この本の良いところは、温泉好きの個人が、利害関係等のしがらみを持たず、極力温泉側にアンケート等による情報開示を求めて、選んだ湯宿を紹介しているという点につきる。
つまり、ほとんどの雑誌が、時には単行本ですら取材に足を運ぶことは珍しいというのである。読者の皆さんが目を通す「温泉特集」のいくつが実際に足を運んでいるのだろうか。
カタログ化している雑誌の中には、宿側から掲載料を取っているところも多い。全ページが広告と化している場合さえあるのだ。今回も「掲載料は取られるのですか?」という質問を編集部は何度も受け続けた。その頻度は悲しくなるほどのものだったという。(はじめに「情報誌と宿は持ちつ持たれつ」)
たぶん多くの人は、従来の紙メディアの情報は、「プロが作った」「客観的」なものだと思っている。でも、そのコンテンツの作り方において、いい加減な、あるいは利害関係をベースにした、読者を欺くような誌面作りをしていたところも少なくなかったというわけだ。この本の発行は2006年。この頃はまだ、あちこちのブログやサイトから「コピペ」してきたようなコンテンツを垂れ流すバイラル・サイトあるいはキュレーションメディアの問題はまだ起こっていない。でも、その根っこ(というか芽というか)はネットメディアに限ったことではなく、すでに広くはびこっていたのだと思うと残念だ。
本書はすでに「絶版」1)で、たぶん古書店でしか入手できない。著者による温泉情報は、2017年9月発行の「温泉手帳(増補改訂版)」(東京書籍)が最新のようである。僕はこの2冊を相互に参照しつつ、次にどこに行こうかと日々楽しく悩んでいる。
↑1 | 著者に「もうあなたの本は絶版にします」とは言いたくないので、版元は大抵、もう刷る気が全くなくても、「重版未定」すなわち、重版するかどうかまだ決めてません、という立場をとる。 |