Still of the Night (Whitesnake)

1987年の「白蛇の紋章〜サーペンス・アルバス」1)を聞いたときの衝撃は鮮明に覚えている。全編、息苦しさを覚えるほどの緊張感と疾走感が続き、ふと気が緩む「捨て曲」みたいなものがない。デイヴィッド・カヴァデールのボーカルは、ブルージーな哀愁を漂わせつつ、圧倒的パワーで魂を鷲掴みにする。ジョン・サイクスのギターは、凍てつく冬のような暗さを湛えて、どこまでもうねり疾走する。聞いた瞬間に、ああこれは歴史に残る名作になるんだろうな、と確信するアルバムだった。

ハードロックバンドには、ボーカルとギターの間にバチバチと火花が散るくらいの緊張感が欲しい。強力なボーカリストには、それに見合うだけのパワーを持ったギタリストが必要だ。その点、カヴァーデルとサイクスはいい組み合わせだった。もちろん両者の力が拮抗すればするほどバランスは微妙になり、結果として短命に終わることが多いけれど(そして事実この組み合わせもそうなったけれど)、それでもその緊張2)だけが生み出せる音楽があるのだと思う。

と、こぶしを握りしめて力説しているそばから、金髪グラマーなお姐さんが出てきて意味不明に踊ったりしているPVはどういうわけだろうか。ホワイトスネイクのビデオの大半はこんな感じで赤面ものなのだが、どうにかならんものか。演奏シーン3)だけで十分格好いいのに。

1 例によって意味不明な日本語タイトルがついている。アメリカ版が「Whitesnake」、ヨーロッパ版は「1987」。
2 2000年代以降(とくにダグ・アルドリッチが抜けてから)は、こういう緊張感はすっかりなくなってしまった。きっと若いギタリストにとってはカヴァーデルが大御所になりすぎ、彼自身も、自分を脅かすほどのギタリストを抱え込むパワーがなくなっているのだろう。
3 「Still of the Night」のPVに出ている面々は、カヴァーデル以外はこのアルバムのレコーディングには参加していない(ヴァンデンバーグは「Is This Love」のGソロで参加)。僕としてはこちらのビデオのメンバーが一番良かったように思う。