もたない男

もたない男書影
中崎タツヤ著 新潮文庫

いつの頃からか、身の回りのものを大幅に減らしてすっきりさせたいなぁ、と思い始めた。「立って半畳寝て一畳」的ミニマリズムへの憧れなのだろうか。そこでいわゆる「断捨離」、「ミニマリズム」みたいな本をいくつか手にとってみたのだが、なんだろう、どうにもダメだ。しゃらくさい美学とか生き方みたいなものが鼻について、素直に読めない。どこか違うんだよな~という感がつきまとう。

そこにやってきたのがこの本だった。で、わかった。しゃらくさいのは、己自身であった。もたない男、中崎タツヤは、その「どこか違うんだよな~」などと言う私の小理屈を粉砕して通り過ぎていってしまった。

ものを捨てることは、私にとって主義でも美学でもありません。捨てることが主義・美学だったら、自分の「したぞ」「やったよ」という達成感、カタルシスみたいなものがあるかもしれないけれども、私がものをすてることと、そういう感覚とは全然関係がありません。無駄が嫌いなんです。スッキリしたいだけだと思うんです。(P.69 第二章 なぜすてるのか)

歳をとってものを捨てたいといっている人たちの多くは、捨てたいのではなくて、整理したいんだと思うんです。(P.136 第三章 もたない生活)

いま、捨てたくても捨てられない人たちのための本が売れているようですが、私は、捨てずにはいられないんです。(P.168 第四章 もたない人生)

究極の、あるいは生まれながらの、もたない男の前では、私は頭を垂れて、理屈をこねまわしていた己を恥じる。ぐだぐだ言っている暇があったら、まずは机の上のしばらく触ってもいないもの1)から捨てねばならぬ。

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