ホバート旅行記 4 蒸留所めぐり – Lark Distillery

Lark Distillery Barrel

 タスマニアのウィスキーづくりはビル・ラーク(Bill Lark)から始まった。測量技師だった彼は、ある日マス釣りをしながらこう思う「タスマニアにはいい水があって、大麦があって、ピート(泥炭)があって、冷涼な気候がある。なんで誰もウィスキー作ってないんだろう?」そこで中古のポットスチル(蒸留釜)を買って、さてちょっくら作ってみるか、となったとき法律の壁にぶつかった。オーストラリアには1901年に採択された古い法律があり、そこで定められた蒸留量の下限が大きすぎて、事実上小規模生産が不可能だったのだ。彼は地元の議員にはたらきかけて、法律を改正することに成功し、92年に正式に蒸留所として認可される。ここにタスマニアのウィスキー作りの新たな歴史がスタートすることになる。

 彼の蒸留所Lark DistilleryのCellar & Barがホバート市内にある。(蒸留所もすぐ裏手にあるらしいが、現在は見学を中止しているようだ。)もしニッカの余市蒸留所や、サントリーの白州蒸留所などを見学したことがあるなら、そのイメージは一旦脇に置いておこう。ここは小さな蒸留所。大きさで言えば、余市で見学が始まる前に時間待ちする待合室くらいの大きさに全てが入ってしまいそうだ。それくらい本当にこじんまりした手作り感溢れる施設なのである。 

 

 ここ数年のウィスキーブームで小規模生産の蒸留所ばかりのタスマニア・ウィスキーは在庫がすっかり払底状態1)。このCellar & Barでもポケットサイズのボトルが1種類購入できるだけだったが、バーカウンターでは、年度違いやカスク違いをいくつか飲み比べることができる。英連邦としてのスコットランドとのつながりや、地元でピートがとれることから、ピートの効いた(煙っぽい)アイラっぽいテイスト2)かな、と思っていたら全く違った。ピートっぽさは全くない、クセの少ない優しい香りと味わいのウィスキーなのだった。

1 大規模生産者であるニッカでさえ、ウィスキーブームで需要があまりに高まり、余市、竹鶴などの原酒が払底するくらいなので、タスマニア・ウィスキーが手にはいらないのもむべなるかな、である。
2 大麦を乾燥させる過程で熱源に泥炭を使うと、その匂いがウィスキーに移る。煙い感じの独特なニオイで最初はぎょっとするが、慣れるとこれがないと物足りなくなる。スコットランドのアイラ島周辺で生産されるウィスキーはこのピート臭が強いものが多い。日本だとニッカの「余市」が比較的強い。